2003 Fiscal Year Annual Research Report
マシャード・デ・アシスと夏目漱石〜対蹠地の同時代作家の近代化に対する共通意識〜
Project/Area Number |
15520158
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
武田 千香 東京外国語大学, 外国語学部, 助教授 (20345317)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柴田 勝二 東京外国語大学, 外国語学部, 教授 (80206135)
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Keywords | マシャード・デ・アシス / 夏目漱石 / ブラジル文学 / 日本文学 |
Research Abstract |
今年度はマシャード・デ・アシスと夏目漱石の作品の寓話性に焦点を当てて研究を行い、11 記載の論文を発表した。以下に要約を記す。 1.マシャード・デ・アシスは、後期の作品群に19世紀のブラジルの歴史を寓意的に織り込んだと言われ、1899年に出版された『ドン・カズムーロ』にはちょうど急速な近代化を迎えた1860年代末〜1870年代のブラジルが歴史的社会的寓話として織り込まれている。ここにはカピトゥとエスコバールに表象される近代化の挑戦を受けながらも、それを受容することができずに近代国家として脱皮することができないブラジルの姿が主人公ベント・サンチアゴを通して描かれており、ブラジルの将来に対するマシャード悲観的展望が伺える。 2.夏目漱石の初期作品の特徴は、主人公を近代日本の寓意として描くことが多いことである。明治39年の「坊つちやん」もその一つであり、喧嘩早く、他人の言動に直線的に反応しがちな主人公は、明らかに開国以来、中国、ロシアと戦争を遂行し、国際社会における強国として認知されようとする日本の進み行きを形象化している。漱石は日本の近代化が「外発的」であるとして批判したが、自己の主体性の表現としてよりも、他者からの働きかけに対する反応としての側面が強い坊っちゃんの行動は、こうした漱石の近代日本に対する眼差しを具体化している。坊っちゃんに対立する教頭の赤シャツはロシアに相当する存在であり、展開の最後に彼に私的な腹いせをするものの、決定的な勝利を収めることができないところに、「外発的」な近代化による日本の成熟に対する漱石の醒めた眼差しが露出している。「坊っちゃん」という主人公の呼称が、その近代日本の未成熟を物語ることはいうまでもない。 以上から、両作家とも19世紀の近代化に取り組むそれぞれの出身国ブラジルと日本を寓意的に小説に織り込み、そこに国の行く末に対する憂慮がうかがえることから、二人の間には小説の手法という点においてもテーマにおいても共通性がみられることが明らかになった。
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Research Products
(2 results)