2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15520159
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
加藤 雄二 東京外国語大学, 外国語学部, 講師 (60224549)
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Keywords | ハーマン・メルヴィル / 阿部知二 / メルヴィル批評 / アメリカ文学 / 比較文学 / 比較文化論 / アメリカ小説 / 国際メルヴィル学会 |
Research Abstract |
本年度6月3日から7日の間に、アメリカ合衆国のハワイ・マウイ島で行われた国際ハーマン・メルヴィル学会に参加し、学会のテーマである「ハーマン・メルヴィルと太平洋」("Melville and the Pacific")に合致する内容の口頭発表"Post World War II Japanese Gamming with Herman Melville"(「第二次世界大戦後の日本のハーマン・メルヴィルとの関わり」)を行った。 この口頭発表は、アメリカ作家ハーマン・メルヴィルを初めて日本に紹介し『白鯨』を日本で初めて翻訳した学者・作家、阿部知二が、典型的に脱構築的であるメルヴィルの作品の読解において1930年代の日本において主流であった日本のロマン派的文学観を比較的無批判に用いた結果として、メルヴィルという作家の反近代的な側面を捨象しメルヴィルを近代を体現する作家とした誤読を通して紹介したエピソードを出発点として、日本でのハーマン・メルヴィルの受容を第二次世界大戦前夜の1930年代から現代まで分析的に辿ったものである。 分析は、阿部知二のメルヴィル紹介と同時代的な小林秀雄の国家主義的文学論「私小説論」が、日本の近代化路線が危機に瀕した1930年代にヨーロッパ起源の自我の普遍性を文学の本質として定位した経緯や、第二次大戦後の日本の文学的言説が、冷戦構造とアメリカ文化との接触により従来の近代化路線の主流であったヨーロッパとの文化的アイデンティティーの同一化をなし得ず、ヨーロッパ、アメリカ文学の文脈では認知されつつあった文化的無意識の領域を発見するにいたる経緯を追い、その認識が1960年に出版された寺田建比古のメルヴィル研究の名著『神の沈黙:ハーマン・メルヴィルの作品と本質』などに現れたと論じ、脱構築的な言説を本格的に受容しようとした作家大江健三郎などを除いては、いまだにハーマン・メルヴィルは十分な理解を得るにいたってはいないとする。 学会後は、発表を"Herman Melville and the Japanese Gamming with his Works in the Modern Context : A Speculative Re-interpretation of the Critical History"と題した論文にまとめ、アメリカのハーマン・メルヴィル学会の機関誌"Leviathan"に出版のため送付した。
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Research Products
(1 results)