2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15520166
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
吉武 純夫 名古屋大学, 文学研究科, 助教授 (70254729)
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Keywords | 葬礼演説 / カロスタナトス / デモステネス / リュシアス / メネクセノス / ツキジデス / アンティゴネ |
Research Abstract |
(1)戦死者賞賛イデオロギーを軸とした悲劇『アンティゴネ』についての研究を発展させ、かねてから私の主張である、戦い「ながら」の死を「カロスタナトス」の一条件と見ることの妥当性を、Institute of Classical Studiesコンファレンス(ロンドン)で専門家たちに問い、好意的な反応を得ることができた.発表内容はICS刊行物に投稿中である.(2)葬礼演説自体の研究としては、デモステネスの葬礼演説の独自性を、他の諸葬礼演説と比較することにより究明した.すなわち、それは構造的にも論理的にも従来の形式を打ち破って、祖国と祖先の事跡を称揚する部分を大幅に縮小し、戦死者は義務を果した者でありそしてまさにその死によって敵を怖気づかせるという功績を果した者だという評価を中心に据えたものであり、戦死者を真摯に見つめた革新的な葬礼演説であるということを論証する論文を纏めた.この研究は私が分担しているもうひとつの科研費研究「デモステネスにおける説得の論理と修辞」とも重なるものであるが(その研究報告書に2004年4月公刊予定)、デモステネス以外の3つの葬礼演説をも精読し、それらへの理解を深めたことは、葬礼演説のジャンル自体の研究として位置づけることができる.他についての新たな知見は次のとおりである.(3)プラトン『メネクセノス』は、葬礼演説というものが戦死者の真の業績とそうでないものを一緒くたにして戦死者を賞賛する傾向を持つという問題点を冒頭で皮肉的に指摘しているが、そこに引用するアスパシアの葬礼演説は秀逸な模範ながらその問題点をも内包した再現であることを発見した.(4)リュシアスの葬礼演説においては、戦死というものは軍勢全体が危険を冒し奮戦したことの証として捉えられ、軍勢全体の功績が「戦死者のアレテー」なるものによって象徴的に表される、という独特の論法が見出されるということを発見した.
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