2006 Fiscal Year Annual Research Report
ワーグナー、ニーチェ、ヘリゲルにおける文化危機の自覚とその克服過程の比較検証
Project/Area Number |
15520182
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
谷本 愼介 神戸大学, 国際文化学部, 教授 (10114555)
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Keywords | 文化危機 / ワーグナー / ニーチェ / ヘリゲル / 世紀末 |
Research Abstract |
本研究は近代ヨーロッパの<文化危機>の実相とその克服の試みを、オイゲン・ヘリゲル、ワーグナー、ニーチェの3者を通して検証することを目的とし、本年度はその最終年度に当り、ニーチェに焦点を絞った。 ニーチェ研究における最大の成果は、ニーチェが若年期から自分を古代ギリシャの王オイディプスになぞらえて、みずからを「最後の哲学者」と名づけていた事実を、遺稿の検証によって発見できたことである。「最後の哲学者」という彼の自己表明は、ワーグナーが古代ギリシャ「悲劇の再生者」であることへの対抗心のあらわれにほかならなかった。さらにニーチェが若年時からみずからをオイディプス王になぞらえていた事実は、19世紀全般にわたるオイデイプス王へのアプローチ、さらには後にフロイトが提起した最大のキーワードがこの王にちなむ<オイディプス・コンプレックス>だったことと相侯って、オイディプス王へのアプローチの系譜を辿る作業を導き出した。以上の検証については、「ニーチェとオイディプス」という論文を作成して公刊した。 ただこの検証は本研究の枠内では最終結論に到達できなかった。それはニーチェがスイス・バーゼル大学で古典文献学教授であった時期に、同地でブルクハルトやバッハオーフェンと親しく交際したプロセスにおいて、彼のバッハオーフェン受容の実態についてはまだ十分に検証されておらず、この点の解明が途上のまま終わったからである。ニーチェのバッハオーフェン受容の実態を解明できれば、当時の<文化危機>の実相にさらに一歩近づけるはずであり、今後の課題として残った。
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Research Products
(1 results)