2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15520187
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Research Institution | KYUSHU UNIVERSITY |
Principal Investigator |
太田 一昭 九州大学, 大学院・言語文化研究院, 教授 (10123803)
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Keywords | エリザベス朝演劇 / 英国ルネサンス演劇 / 劇団と地方巡業 / 宮廷祝典局長 / 演劇検閲・認可 / 初期英国演劇関係資料 / REED / 演劇公演ライセンス |
Research Abstract |
本年度は、2編の論考を執筆した。一は「宮廷祝典局長の利権-パトロネジの経済学」(『英語英文学論叢』所載、拙稿総ページ数42)であり、他は「エリザベス朝の劇団と地方巡業」(『言葉の絆-藤原保明博士還暦記念論文集』所載、拙稿総ページ数17)である。 前者は、英国ルネサンス期の歴代の宮廷祝典局長の収入源を詳細に調査し、局長の演劇作品の上演許可や劇場公演ライセンスの発行など、演劇関係の許認可が祝典局長の営利活動であったことを明らかにした。この論考は、筆者の(本研究とは別のもう一つの)研究課題である英国演劇検閲・統制史研究に関連したものである。本論考の目的は祝典局長が当時の演劇産業の利権にいかに深くかかわっていたかを実証することであったが、論証の過程で、局長と役者そのほかの芸人たちの地方巡業とのかかわりを調査し、これについて論文中に詳述している。従来の英国ルネサンス演劇史研究では、祝典局長とロンドンの演劇や劇場との関係しか考察の対象とならなかったといっても過言ではない。本論考は、視野をロンドン以外の地域にまで広げて、祝典局長の演劇に対する許認可権が地方巡業にまで及んでいたことを明らかにしている。 後者は、エリザベス朝の大衆劇団と地方巡業の関係を論じたものである。その結論は、次のようである。エリザベス朝の劇団と地方巡業の関係は、単純に図式化できない複雑さと多様性をはらんでいた。地方巡業のもつ意味は、劇団によって大きく異なっていた。役者たちがロンドンを離れて旅回りをしたのは、疫病流行のためとはかぎらなかった。ロンドンに本拠を置く劇団、あるいはロンドンで定期的に公演する劇団でも、地方巡業を公演スケジュールに組み込んでいたのである。旅回りの少なかった宮内大臣一座は、例外的な劇団であった。逆に、エリート劇団でありながら、他に例をみないほど旺盛に地方を巡った1580年代のエリザベス女王一座もまた、特異な劇団であった。本稿では、そのような劇団間の差異がどのようにして生じたのかの理由は探らなかった。それは今後の研究課題である。 英国ルネサンス期地方演劇関係資料集、すなわち初期英国演劇関係資料(Records of Early English Drama、略称REED)の刊行が続いている。すでに18の地域について資料集が刊行された。現在、この浩瀚な資料集についての評価を論考としてまとめることを計画し、その作業に取りかかっている。
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Research Products
(2 results)