2004 Fiscal Year Annual Research Report
北アイルランドの歴史・社会・文化とシェイマス・ヒーニーの詩の関連についての研究
Project/Area Number |
15520196
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
佐藤 亨 青山学院大学, 経営学部, 教授 (40245337)
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Keywords | 北アイルランド / シェイマス・ヒーニー / 歴史・社会・文化と詩 / 紛争 / モダニズム |
Research Abstract |
本年は『異邦のふるさと「アイルランド」』(新評論、2005年5月出版予定)出版準備に多くの時間を費やした。本著はこの10年ほどに書いた論文と書き下ろしの論文から成るものだが、出版に当たりなるべく多くの読者に読んでもらいたいという編集者と私の願いが一致し、過去のものを大幅に改稿し、また、それにあわせて新しいものを追加し、さらに現地で撮影した200枚ぐらいの写真を添えたものである。年表を含め、400字詰め原稿用紙で1000枚ほどになる予定である。この作業を進めながら、研究課題である「北アイルランドの歴史・社会・文化とシェイマス・ヒーニーの詩の関連について」のうち、北アイルランドの置かれた状況が、支配・被支配の関係、中央と地方などの観点において、日本の東北地方と大いに共通点があることに気づき、また、ヒーニーの詩の一節に触発されて詩作した秋田出身の現代詩人吉田文憲の詩の研究ならびに詩の背景としての故郷(北秋田)を調査するなかでその関係の深さを確信するに至った。具体的な共通点は北アイルランドにおけるゲール語地名の英語化と、北東北におけるアイヌ語地名の和名化などである。ヒーニーと吉田の比較を通し、土地(歴史・社会・文化を含む)と詩の問題を、北アイルランドに限らず、東北を含め、地域を越え、また地域を横断して研究する指針を得た。そのうち、とくに詩と故郷の問題は、現代人の故郷喪失と回復という視点から捉えることができ、民俗学者の宮本常一や柳田國男の著作は大いに示唆的である。目下のところは、日本の民俗学の成果を踏まえ、土地と詩の問題の研究基盤を耕しているところである。以上のようなことを踏まえ、本年度は日本アイルランド協会年次大会のシンポジウム「ジョイス以後のアイルランド文学」で研究発表を行い、また、年度末には福島市で開催された「ことばとアイデンティティに関する国際シンポジウム」(「『東北』のことばから地域アイデンティティを考える--北東スコットランドと日本の東北」)に参加した。また、発表論文は、アイルランドの歴史と文学伝統を論じたもの(「アイリッシュネスの展開--伝統と一個人の才能」)と、T.S.エリオットに関するもの二篇である。二篇のエリオット論は土地と詩を直接研究したものではないが、詩というものがこれまで歌ってきた土地や風景を失うとどうなるか、すなわちモダニズムの時代における詩の一側面を論じたもので研究課題と間接的に関連している。
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Research Products
(3 results)