2003 Fiscal Year Annual Research Report
異人論と王権論の展開としての北欧神話と日本神話の比較研究
Project/Area Number |
15520217
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
水野 知昭 信州大学, 人文学部, 教授 (30108435)
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Keywords | 古ゲルマンの常世郷 / 太陽舟と太陽馬車 / 神聖なる戦闘 / 異人による竜蛇退治 / 円環詩法 / 海に葬送される王者 / 「流され王」 / 海と魂 |
Research Abstract |
北欧の女神フレイヤが領有する天界のフォールク・ヴァンガル「軍勢の原」と、天照大神の司掌する「高天原」の共通性を探った。古ノルド語vangr(上記ヴァンガルはその複数形)または同系の古英語・古サクソン語wangは、地上の楽園としての「水豊かな光輝の原」と至福な者が召される「天上界の原」の両方を意味した。「不死鳥の歌」におけるwangの用法を検証し、「海のかなたの死と再生の原」いわば古ゲルマンの常世郷の概念を抉出した。また、北欧の後期青銅器時代に淵源する「太陽舟と太陽馬車の信仰」を考究した。「世界を見る目」としての太陽、鳴動する「美しき車輪」(fagra hvel)としての太陽は、昼は馬車、夜は舟によって運ばれるという神話的観想が存したことを詳説した。 雷神ソールとミズガルズ蛇の闘争神話と、スサノヲによる八俣大蛇退治伝説の比較考察を加えたが(拙論2001)、それを異人論と犠牲論の見地からさらに発展させた。たとえば古ノルド語vega「討伐する」やvig「激闘」などの用法をみると、神々や勇者の戦闘力そのものが神聖視されていたことが分かる。竜蛇は「水辺の楽土を占有する異人」として描かれ、相似的にこれらを退治する勇者たちにも、「超人的な力」または「神力」(アース・メギン)を発揮する「異人」という共通特性が認められた。宿敵を「討伐する」戦闘力が激発し、犠牲の血が大地に振り撒かれるとき、豊饒力が誘発されると信じられていたのだ(拙論「異人による聖戦としての竜蛇退治」)。 ボン大学にて開催された第12回国際サガ会議(2003年7月28日〜8月2日)において、「エッダ詩における円環詩法と語りの循環構造」(英文)の口頭発表をし、その成果が同学会誌上に掲載された。ちなみに「ヴォルンドの歌」の詩人は、表現要素をA-B-C-D-[X]-D-C-B-Aというふうに配置し、錯綜するモチーフが相互に連関を惹き起こす円環詩法を駆使している。そして「恐るべき異人」としての鍛冶師ヴォルンドを迫害・虐待したことによって、一つの王家が衰滅の危機に晒される話となっている。 また、「流され王」(柳田国男)としての始祖王シュルドと、海の彼方に去る穀霊イングの伝説を引証しながら、「海に葬送される王者たち」の諸伝説の根底に横たわる「海と魂」の古代信仰を照射した。古ゲルマンの「中つ国」と「根の国」の解明(拙論2001)に続いて、そこからの展開として、王権論の新境地を得られたと思う。
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Research Products
(6 results)
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[Publications] 水野知昭: "「ヴォルンドの歌」にみる円環詩法"信州豊南短期大学紀要. 20号. 67-107 (2003)
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[Publications] 水野知昭: "不死鳥の歌なんか聞こえない-海のかなたの楽園と古ゲルマンの選民思想-"人文科学論集・文化コミュニケーション学科編(信州大学人文学部). 37号. 39-66 (2003)
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[Publications] 水野知昭: "古北欧の太陽舟と太陽馬車の信仰"太陽神の研究 下巻(松村一男・渡辺和子(編))(リトン社). 247-282 (2003)
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[Publications] 水野知昭: "Ring Composition and Circular Narrative Structure in Eddic Poems"Scandinavia and Christian Europe (Univ.Bonn). 382-392 (2003)
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[Publications] 水野知昭: "異人による聖戦としての竜蛇退治-力の勇者ベーオウルフとソールを中心に-"アジア遊学(勉誠出版). 59号. 26-36 (2004)
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[Publications] 水野知昭: "漕ぎ手なき舟にて漂うて-海に葬送される王者たち-"人文科学論集・文化コミュニケーション学科編(信州大学人文学部). 38号. 57-85 (2004)