Research Abstract |
本年度は,昨年度の研究に引き続いて,漢語層と和語層との相対的な関係について分析を進めた。とくにその中の具体的問題に絞って考察を行った。なお,考察を進めるにあたっては,関係する音韻論,音声学,日本語史などの,最新の研究動向の把握に努めた。日本語音韻史に関してはさほど参照ずべき研究がないかに思われがちであるが,実際には重要な研究があり,また,関連分野の研究が多岐にわたるため,それらに対する目配りも重要になる。そのため,その作業にできるかぎり時間を割いた。 昨年度,明らかになった点に,母音融合変化の具体的諸相がそれほど単純でないことがあげられるが(昨年度実績報告書),これを具体的にどのように整理するのかが本年度の重要な課題となった。言い替えれば,現象を総体として捉えてよい部分と,そうでない部分とをどのように整理するかが重要となった。その問題を解く必要上,母音融合と拗音との関わりに具体的に注目した。 拗音をどのように見るかという点は,和語の変化と漢語の変化との相互関係を明らかにする上で,避けられない問題である。従来の整理の枠組みの問題点を意識した上で,漢語の受容と変容の両面における拗音の問題をこれまでとは違った枠組みにおいて捉えた。具体的には,漢語と密接に関連すると考えられている拗音を,漢語から一旦切り離して,和語の問題の一つとして設定し,その枠組みの中に漢語の表現を措く必要性を明らかにした。 また,文献資料から何が明らかにできるかという問題も,従来の研究で尽きているかに考えられがちであるが,まだまだ研究の余地があることがこれまで以上にわかった。漢語の視点から日本語音韻変化を捉える上で,文献資料の読み解きがどのように重要な意味を持つのかという点も明らかにした。 本年度は以上の点を中心に,前年度の研究をより具体的な問題に絞って考察し,その内容を論文にまとめた(来年度公表予定)。
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