2003 Fiscal Year Annual Research Report
札幌農学校・北海道帝国大学における植民学の展開にかんする基礎的研究
Project/Area Number |
15520392
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
井上 勝生 北海道大学, 大学院・文学研究科, 教授 (90044726)
|
Keywords | 植民学 / 札幌農学校 / 佐藤昌介 / アイヌ民族 / 甲午農民戦争 / 東学農民戦争 / 北海道旧土人保護法 |
Research Abstract |
前論文「札幌農学校と植民学-佐藤昌介を中心に-」(2003年2月)では、未発表の「佐藤昌介植民論第一講義ノート」の一部を紹介した。この講義ノートは、毛筆の草稿で解読が難しかったが、今年度に解読を完了した。 佐藤昌介が、欧米から学んだ植民学を札幌農学校で講義し始めた頃が、北海道の「開拓」の発展期に当たることが指摘される。「開拓」は、北海道国有未開地処分法によって、大地主制を導入して展開された。この時期に、先住民族アイヌの排斥と差別が進んだ。佐藤が植民学のなかで大土地払い下げを唱えて、小農民中心の「開拓」を批判していたことが明らかになる。さらに、アメリカなどの事例で、先住少数民族にたいする政策を、佐藤が第一講義ノートで展開していたことも明らかになる。 従来は、北海道の大地主制への展開とアイヌ民族の排斥の進行が、十分に関連づけてとらえられてはいない。今年度は、現在、札幌高裁で裁判が進んでいるアイヌ民族共有財産裁判で、歴史家としてアイヌ民族共有財産の歴史について証言を求められたこともあり、1890年代から1900年代の、北海道旧土人保護法制定前後の歴史的事実について調査を進めた。これは、近代アイヌ史の研究がきわめてすくないために、どうしても必要な、札幌農学校の植民学が形成される時代背景の解明であった。この成果は、5月に札幌高裁に「アイヌ民族共有財産裁判意見書」という研究者としての意見書を提出し、12月に歴史研究者として札幌高裁でアイヌ民族の歴史について証言をした。11月には、読史会大会で「アイヌ民族共有財産の歴史について」として学会発表を行った。 また、植民学形成期の時代背景として、朝鮮の甲午農民戦争・東学農民戦争「討伐」軍兵士の出身地、四国四県の「討伐」軍兵士の現地をフィールドワークして調査を進めた。自由民権期とは異なるこの時期の対外観について新しい知見を得た。収集資料の整理を進めて発表する予定である。
|