2003 Fiscal Year Annual Research Report
異宗教間の交渉と王権との関係についての比較史的考察
Project/Area Number |
15520416
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
本郷 真紹 立命館大学, 文学部, 教授 (70202306)
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Keywords | ケルト / 宗教文化 / 他界観 / 王権 / 比較史 |
Research Abstract |
西ヨーロッパに展開したケルトの古文化は、文字を有さない故に、その実態の究明には多大の困難が伴うが、アニミズムから発展した自然の神々を崇敬する多神教の信仰をその中核としていた。一般には、ローマ帝国の侵攻とキリスト教の宣布により、大きな打撃を受け、表面的には圧倒され根絶したとされる。しかし、実際は、キリスト教は在地の信仰を壊滅させた上でこれに取って代わった訳でなく、寧ろ融合的な手段を通じ、伝統的信仰をその体系内に包摂する事で地盤を築いたという事ができる。例えば、聖母マリアの母・アナー(古代ケルトの大地の神)に対する信仰をその代表的な例として挙げる事が出来るが、同時に、キリスト教の修道士が書き残したケルトの古伝承には、何故か日本をはじめ東洋の諸地域に多く見受けられる他界観、日本の黄泉観や中国の桃源郷に対する観念に共通する要素の存在する事が注目される。また、現在伝わる古代の祭場跡と目される遺跡の性格にも、他地域と共通する部分が少なくない。古伝承に窺われる他界観は、当時の王権と密接に結びつく形で形成され、その特質も、当該地域の統治の性格と不可分の関係にあると認めねばならない。王たる統治者は、自然神との血縁的な関係を強調する事で自らの宗教的な権威を樹立し、その権威を背景として地域支配の正当性を標榜する。同時に、祭祀権を行使する事でその地位の世襲的な継承をも正当化し、常に祭主としての権限をも行使する。今後さらに対象地域を拡大し、如上の傾向に関する検証を推進する所存であるが、このような信仰と王権の関係に対する分析は、地域差を超越した精神文明の発展段階の特質として興味深い事実を導くものと確信される。
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