2005 Fiscal Year Annual Research Report
他者としてのビザンツ人-同時代人の心象世界の中のビザンツ像-
Project/Area Number |
15520446
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
根津 由喜夫 金沢大学, 文学部, 助教授 (50202247)
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Keywords | ビザンツ / コンスタンティノープル |
Research Abstract |
本年度は、ゴーティエ・ダラス作『エラクル』を主たる分析対象として取り上げ、そこから読み取れる中世フランス人のビザンツ観の析出を試みた。この作品は、7世紀前半のビザンツ皇帝ヘラクレイオスをモデルに、彼のペルシア遠征と真の十字架奪還の偉業から想を得た物語であるが、史実はかなり自由に改変されており、主人公はローマの元老院議員の息子という設定になっている。作者はここで、その多くが東方起源と思われる多くの説話や伝承を集め、それらをパッチワークのように巧みに繋ぎあわせることで、ひとりの英傑の人生絵巻を紡ぎ出しているのである。その意味でこの作品は、厳密に言えば、皇帝ヘラクレイオスという歴史上実在した人物の「伝記」ではなく特にその前半部分に関しては、この皇帝に仮託された全くの虚構の物語、作家ゴーティエの純然たる「創作」と言うべき作品なのである。しかし、史実に照らしてこの作品の内容が荒唐無稽だからといって、それが歴史研究の視点から無価値かといえば、必ずしもそうではない。この文学作品をそれが成立した時間と空間の中に位置づけてみると、最初は一人の作家の夢想の産物にしか見えなかった作品の背後に広大な歴史的眺望が広がっているのを我々は眼にすることができるのである。作者は一連の創作の結果、西欧出身の皇帝による東方の帝国の救済、という西欧人にとっては誠に都合のよい筋立てを成立させることになる。ここにも、自己の正義を疑わず、自分たちの支配権の拡大が世界を救うと素直に信じて込んでいた当時の西欧人の自己中心的な純朴さが確認されるであろう。
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Research Products
(2 results)