2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15520452
|
Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
吉田 正広 愛媛大学, 法文学部, 助教授 (10284382)
|
Keywords | 現代史 / 教会 / 福祉国家 / イギリス / 戦争 / 社会改革 |
Research Abstract |
本年度は、9月におけるロンドンでの資料調査を通じて、第一次世界大戦期および第二次世界大戦期におけるテンプルの戦争認識をパンフレット類から分析し、彼の認識において戦争と社会改革とがどのような論理的つながりを有していたのかを明らかにした。 テンプルが一貫して訴えたのは、国家の道義性の問題であった。国家を構成するキリスト教徒の市民は戦争の際には「市民の義務」として戦場に赴く必要があり、命を捧げることになる。市民が命を捧げるこの国家は、キリスト教の道義性を決して免れない。この国家の道義性の確保こそが、20世紀においてイングランド教会が果たすべき重要な役割となった。そのためにはイングランド教会自身が戦争の中で自己改革を行わなければならず、また、教会は国家や議会から一定の自立を果たさなければならなかった。第一次世界大戦期の「悔悛と希望の国民伝道」、第二次世界大戦期のテンプルの様々な活動はそのような観点から理解されるべきであると結論づけた。 また、第二次世界大戦末期においてテンプルは、「産業キリスト者協会」を通じて「教会は将来を展望する」運動を展開したが、それはロンドン・シティの経済活動に対しても道義的責任を求めた運動であった。このような活動の延長に、「福祉国家」が位置づけられたのではないだろうか。テンプルは、国家や国民を絶対視したナチスの国家体制に対して、道徳的・宗教的義務に拘束されたイギリス国家を対峙させようとしたのである。 以上が今年度の研究成果である。テンプルが「福祉国家」を具体的にどのように提唱し、テンプルの運動が実際の「福祉国家」にどのような形で反映したのかに関する諸問題が、今後の課題として残った。
|
Research Products
(3 results)