2003 Fiscal Year Annual Research Report
ナポレオンの大陸封鎖をめぐるフランス世論の動向―第一帝政史研究への一視角―
Project/Area Number |
15520465
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Research Institution | Kyoto Tachibana University |
Principal Investigator |
服部 春彦 京都橘女子大学, 文学部, 教授 (20022345)
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Keywords | ナポレオン / 大陸封鎖 / フランス / 海外貿易 / 繊維工業 |
Research Abstract |
1 これまでに入手できた研究文献と史料を利用しながら、繊維工業中心地として北西部のルーアンと東部のミュルーズ、海外貿易中心地として南西部のボルドー、内陸商業中心地として東部のストラスブールを取り上げ、ナポレオン期における各都市の経済活動の推移と商人及び工業経営者の動向を詳細に検討し直した。 2 その結果、まずルーアンとミュルーズに関しては、1800-06年の綿工業生産の回復期、次いで1807-10年の拡大期、1811-14年の衰退期が識別され、大陸封鎖期(1807-14年)の後半には原料綿花の供給不足と高値のために生産活動は著しい収縮を余儀なくされたことを明確にできた。特にルーアンでは、フランス帝国の他の綿工業中心地に比べて、ナポレオンによって開かれた大陸内市場を利用できなかったと考えられ、このことから、大陸封鎖に対する綿工業経営者の不満が徐々に醸成されたのではないかとの見通しを得た。 3 このようなの綿工業生産の3局面は、帝国の輸出入商品集散地として重要な位置を占めていたストラスブールにおける商業活動の動態とも基本的に一致することが確認された。そこでは、特に1811年以後非合法貿易の拡大が見られる一方で、政府の通商政策に対して商業会議所の苦情が繰り返し表明された。 4 これに対してボルドーでは、18世紀に港の繁栄を支えた植民地貿易は大幅こ縮小したものの、貿易商人層はナポレオン期にイギリスの海上封鎖の下で中立国船の利用や非合法貿易、さらには特許状貿易や海外への移住などによって新たな状況に適応しつつ、海外貿易の利益を一定程度享受しつづけていたことが確認された。このことは、ボルドーの貿易商人層が大陸封鎖に対して不満を強めていたという通説を再検討する必要を示唆するものである。
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