2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15520479
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
溝口 孝司 九州大学, 大学院・比較社会文化研究院, 助教授 (80264109)
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Keywords | 成人用大型甕棺 / 形態分析 / 土器生産 / 生産組織 / 埋葬 / 地域性 / 北部九州地方 / 弥生時代 |
Research Abstract |
本研究は、弥生時代、主に北部九州地方を中心とする地域で、成人用の埋葬容器として用いられた、いわゆる成人用大型甕棺を形態学的に検討し、その地域性を客観的に析出し、その結果を他のさまざまな要素と比較して、地域性という変異が反映する大型土器製作の内容とそれに関わった生産組織単位、そのような組織間の関係について明らかにしようとするものである。本年度は、成人用大型甕棺使用地域のほぼ中央部に所在しつつも、日常土器の地域性においては福岡平町域のそれといわゆる筑紫平野域のそれとの境界部に位置する太宰府市松本遺跡の甕棺について詳細な記録化を行うとともに、同遺跡の乳幼児用甕棺(小型の甕形土器を使用)の記録化、その様相の分析を行い、大型土器としての成人用大型甕棺との様相対比の準備作業段階とした。 その結果、下記のようなことが明らかとなった。 1.一遺跡内の、同一時期に属する甕棺どうしの間に、細部形態における顕著なばらつきがあること。 2.一遺跡内の、同一時期に属する甕棺どうしの間に、細部の微細な特徴を共有する少数のグループがみとめられること。 3.乳幼児用甕棺として用いられた二個体一組の甕形土器のあいだで、形態的特徴が細部にいたるまで酷似するものがあること。 上記1は、大型甕棺が、同一製作者によって、一度に大量に製作されたものではない可能性を示唆すると考えられる。上記2は、大型甕棺の個別の製作者、ないしは土器製作における微細なくせを共有するようなグループの認識が考古学的に可能であるかもしれないことを示唆する。上記3は、乳幼児用の甕棺が、あらかじめストックされた甕形土器から選ばれたり、すでに使用されている甕形土器の内からランダムに選ばれるのではなく、ある乳幼児の死の後に埋葬用に作られたものを含むことを示唆する。(しかし、多くの甕棺には煮沸具としての使用の痕跡があり、それらはすでに使用されていた土器のなかから転用されたものであることが明かであることも明記しておきたい。) 以上は、成人用大型甕棺の製作の容態が、さほど高度に組織化されたものではなかった、例えば、短期間に集約された多数個体の生産の形をとるものではなかった可能性を示唆している。 16年度には、資料化・分析の対象遺跡、ならびに地域を拡大し、さらに、成人用大型甕棺の示す容態とその他の日常土器の容態との比較を継続して、本研究の目的を達成する。
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