2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15520489
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Research Institution | Kashihara Archaeological Institute , Nara prefecture |
Principal Investigator |
岡林 孝作 奈良県立橿原考古学研究所, 調査第1課, 主任研究員 (80250380)
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Keywords | 古墳時代 / 木棺 / 樹種同定 / コウヤマキ |
Research Abstract |
昨年度から継続して、古墳時代木棺用材の分析、一部の樹種同定結果の公表を行った。また、韓国錦江流域および洛東江流域の木棺資料収集をあわせて実施した。昨年、日本の刳抜式木棺との関連が注目された昌寧ソンヒョンドン7号墳出土木棺は、観察の結果、クスノキ・クリ材を使用した準構造船部材の転用棺であり、日本の木棺との直接的な関係については慎重に考える必要があることが判明した。研究全体の成果品として、樹種同定結果の全国集成に考察を加え、あわせて奈良県かん山古墳、栃木県栃木高校所蔵木棺等、未公表の同定結果を掲載した報告書を作成した。 3年度にわたる集成作業の結果、167例の木材科学的な分析に基づく樹種同定資料を収集した。その結果、木棺の用材選択の地域分布にみられる大きな特徴として、コウヤマキ材を選択的に使用する地域と、使用しない地域とが截然と区分される実態を明確化した。前者は北近畿を除く近畿地方、愛知・岐阜・岡山の周辺各県に広がり、その地域的枠組みは古墳時代を通じてほとんど変化しなかったことが判明した。コウヤマキ材の選択的使用地域内では、前〜中期にはコウヤマキ材の使用が約9割に近く、際立った選択性が認められる。その一方で、階層的に下位あるいは従属的様相のつよい埋葬施設においては非コウヤマキ製木棺が採用されるケースがあり、用材選択に一定の階層性の反映がみられた。このようなコウヤマキ材の選択的利用は後期にも継続するが、7世紀中葉以降には非コウヤマキ材の比率が急増する。後期には棺材の接ぎ合わせ利用や非コウヤマキ材との混用といった現象がみられ、コウヤマキ材資源が減少し、材の不足が表面化したものと考えられた。 コウヤマキ材は近畿地方を中心とした地域においては古墳の造営と密接な関係を有しており、活発な古墳造営を可能にした条件の一つとして、一定の木材供給システムの存在が推測できる。韓国錦江流域の百済王陵級の古墳におけるコウヤマキ製木棺の飛び地的分布は、そうした木材供給システムへの王権の関与をうかがわせるものと評価できる。古墳時代における木材供給システムがどのような実態を有するものであったか、今後も用材利用の地域性や階層性の基礎的検討を続けることが必要である。
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Research Products
(6 results)