2005 Fiscal Year Annual Research Report
西日本海域社会における漁民の移動と定住に関する研究
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15520530
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
高桑 史子 首都大学東京, 都市教養学部・人文社会系・社会学コース, 教授 (90289984)
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Keywords | 瀬戸内漁民社会 / 海産物の流通 / 移動漁民 / 林兼と大洋漁業 / 漁民の朝鮮出漁 / 漁民の南方出漁 / 金毘羅信仰 / 一本釣り漁民 |
Research Abstract |
本年は当該研究の最終年度にあたるために、研究の総括を目的として、過去2年間の研究で収集した資料の補充に力点をおいた。そのため、瀬戸内海、宇和海から伊予海域での短期間の調査を行った。そのため、調査では主に博物館や資料館での資料収集を行った。 瀬戸内の漁民社会をみると、遠く遠方へ出漁する漁民と農業を主としてあまり遠方へ出漁しない漁民の2タイプがみられる。それは漁民の個人的資質もあるが、むしろ社会そのものの資質ともいえるであろう。しかし、どのタイプの漁民社会であれ、近代以降は近畿を中心とする海産物流通のネットワークに組み込まれ、やがて彼らのなかから、阪神地方の工業化の労働力となる者、東アジアへの日本の進出に巻きこまれていく者などが出現した。さらに国家の動きとは必ずしも呼応しない形の南方への進出は、海人あるいは海民とも表現される、自由闊達かつ個人主義的な漁民の行動としてとらえるべきである。また、たとえば、周防大島の沖家室島のようにかつては農業者が主であった地域に伊予から漁民が移動してきてから、勇猛な一本釣り漁民の村となった所もある。このように海域社会は絶えず流動し、動態的にとらえていく必要がある。 かつての漁村や漁港は水産業の衰退と過疎化により、勇猛果敢な海人を彷彿とさせるものは表面的にうかがい知れない状況であるが、近年では、日本全体の動きとも指摘される定年後Uターン者も多く、また行政と観光関係者との連携により、海と人との暮らしを全面的に打ち出す観光開発も行われている。また、瀬戸内海から西日本海域社会に関して考察する際に重要な人物である宮本常一の業績の発掘と再評価が積極的に行われており、今後も地域史を超越した研究の深化が必要である。
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