2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15530004
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
海老原 明夫 東京大学, 大学院・法学政治学研究科, 教授 (00114405)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
寺尾 美子 東京大学, 大学院・法学政治学研究科, 教授 (20114431)
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Keywords | 収用 / 損失補償 / 特別犠牲説 / regulatory taking / 所有権 |
Research Abstract |
収用と補償をめぐる枠組にとって最も基本的な思想は、いわゆる特別犠牲説の考え方である。すなわち、公共の福祉のために課せられる一般の犠牲は何人も補償なしに甘受しなければならないが、特定の人が特別の犠牲を課せられ、そのことによって社会公共が全体として利益を得ているような場合には、その時別の犠牲に対する補償が必要となる、という考え方である。この考え方はドイツでは、民事裁判所の判例には根強く残っているものの、憲法裁判所は、所有権の一般的な制限を定める「内容規定」と、補償の要件と態様とを定める「収用規範」とは別の次元にあり、内容規定が特別の犠牲を課したとしても、補償という効果が発生することはない、とする。これは、所有権秩序について立法者の判断を常に先行させ、補償請求権の付与というかたちでの裁判所の関与を、立法者があらかじめ予定した要件の下でのみ許容する姿勢の現れである。それに対して、特別犠牲説を援用しつつ補償を認める発想は、個別的な所有権者の保護の要請に応えようとしている。そうした要請がしかしながらドイツにも存在することは、いわゆる「救済条項」が多く用いられていることが示している。本年度は、以上の問題状況を前提にして、研究代表者海老原においては、ドイツでの「救済条項」の許容性をめぐる議論を中心に検討を行った。 他方でアメリカ法においては、基本的には日本と同様に特別犠牲説的な枠組を前提に議論が立てられている。すなわち土地利用規制が、どの段階で、あるいはどのような場合に、損失補償を必要とする「収用(taking)」となるかをめぐるregulatory takingの議論が、通信分野を中心に進行している規制緩和との関係で応用され、独自の展開を見せている。研究分担者寺尾においては、本年度はこのregulatory taking(「規制緩和による収用」論)についての判例や法的議論の動きを中心に研究を行った。
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