2004 Fiscal Year Annual Research Report
わが国農業政策における政策ネットワークの形成と変容
Project/Area Number |
15530090
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Research Institution | HIROSHIMA UNIVERSITY |
Principal Investigator |
森邊 成一 広島大学, 大学院・社会科学研究科, 教授 (50210183)
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Keywords | 政策ネットワーク / 政策コミュニテイ / 政策過程 / 農業政策 / 農業基本法 / 農林水産省 / 農業協同組合 |
Research Abstract |
わが国では、1950年代に食料輸入=外貨逼迫、国内農産品の低価格=価格差補給金支払といった諸要因から、大蔵省・財界、農林省・農業利益集団(農協)一致して、農業保護=国内農産品価格引上政策を展開した。この点では、Martin J.Smithが、単一の巨大農業利益集団をもつ英国の農業政策について行った指摘と類似する状況が存在した。しかし、わが国における農家経営の零細性と農業人口の巨大さという環境要因に規定されて、英国のように政策過程を構造化=政策コミュニティ化して、政策課題設定から政策実施までの政策過程を、農水省と農業利益集団が閉鎖的に共同管理することに、日本では成功しなかった。 むしろ、50年代半ばには、米価政策に典型的に示されるように、議会政党・議員を利益集団が動員する公然たる圧力政治が発現した。政策ネットワークによる政策過程の構造化と紛争管理が徹底しなかったのである。このことがむしろ、農林省主導の農業基本法制定(1961年)と農業構造改善事業の展開を促した。この過程では、ネットワーク化ではなく、官僚主導=hierarchyが政策転換に際して顕著となり、同時に米価と農業土木補助金をめぐる圧力政治=pluralismも強化されることとなった。 とはいえ、メゾレベル=産業セクター単位での、政策ネットワークの不成立の一方で、ミクロレベル=個別農産品レベル、具体的には甜菜・蚕糸・畜産などでは、その価格政策の維持・運営では、農林省・生産者・加工工業者を中心とする政策コミュニティが形成された。この点では、政策類型を細分化して、価格の市場統制型=米価政策や農業土木補助金など市場を介在しない政策においては、利益集団の圧力政治が全面化するのに対して、農産品価格の「市場価格誘導型」や「市場価格補正型」の政策では、農林省が価格を一元的・政治的に決定できず、政策コミュニティによる政策過程の管理が発現するのではないかと考えられる。
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