2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15530233
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
廣田 功 東京大学, 大学院・経済学研究科, 教授 (90055236)
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Keywords | 相対的遅れ / イギリス・モデル / 小規模工業 / 集合産業 / 家内工業 / 消費社会 / 経済的自由主義 / ル・プレー学派 |
Research Abstract |
19世紀フランスの工業化については、国際比較の観点から、その間慢性を規定した要因に関心が向けられてきた。しかし近年、「イギリス・モデル」を基準として、フランスの工業化の「相対的遅れ」を指摘する議論に対して反省がなされ、フランスの「工業化の独自の道」の特質とそれを規定した歴史的諸条件・要因が注目を浴びている。 本研究は、このような最近のフランスにおける19世紀経済史研究の問題関心に触発されて、19世紀(フランス革命〜第一次大戦)フランスの工業化の特質に関する論点を整理することを意図している。その場合、かつての議論の中心がフランス革命によって生まれた農業・土地所有制度との関わりから工業化の特殊性を検討することであったことに着目し、本研究では工業部門そのものの特殊性〜とくに19世紀を通じて長い間、大工業の発展とともに小規模工業が並存して存続したこと〜と、それを生み出した条件・要因の検討に重点を置いた。またこのような工業化の特質と経済政策・社会政策との関連を問う前提として、革命後の「経済的自由主義」や自由競争観に見られるフランス的特質に注目し、工業化と政策思想史の関連にも関心を向けることにした。 以上の課題と関心に基づいて、本年度は、夏季休暇を利用して、小規模工業の典型であるパリの工芸品産業に関して現地で文献・資料の収集を行った。またパリ滞在中、パリの小規模分散工業に関する研究の第一人者であるパリ第19大学研究員アラン・フォール氏と19世紀経済思想史研究の第一人者であるリール第3大学名誉教授のJ.P.イルシュ氏と会い、研究交流を行った。また両氏をそれぞれ日本に招聘し、ファール氏とは「19世紀の工業都市パリ」に関して、またイルシュ氏とは「19世紀フランスの工業化の制度的特質」について、共同研究を行った。 その結果、フランスにおいては、第二帝政期のデパートの成立に見られるような「消費社会」の発展を支えた消費財生産の発展は、大工業による「大量生産」ではなく、一種の「問屋制度」を意味する「集合産業」industrie collectiveを基盤としていたことが明らかとなった。この事実は、同時代にル・プレー学派のモノグラフィーが発見していた事実であるが、その後、産業革命研究の中で、イギリス・モデルの工場制度の成立に関心が向けられたために、この事実が看過されていった。
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