2003 Fiscal Year Annual Research Report
日本企業の人的資源管理における個人情報の非対称性と粘着性に関する調査及び研究
Project/Area Number |
15530258
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
平野 光俊 神戸大学, 経営学研究科, 助教授 (10346281)
|
Keywords | 情報の非対称性 / 情報の粘着性 / 異動の力学 / 双対原理 / 日本型組織モード / アメリカ型組織モード / グループ経営改革 / ビジネス・プロセス改革 |
Research Abstract |
不完備情報下における逆選択は、企業の中の異動(人材取引)においても生じているのではないか。そこで、日本の小売業2社を比較分析し、社内労働市場における「異動の力学」を規定するパラメータに情報の非対称性を据えることの有効性を示そうと試みた。ケース分析では、人事異動を調整・決定する主体の間には情報の非対称性があることが確認された。個人情報は日常の仕事ぶりを直接観察する事業部門に、組織情報は戦略策定に関与する人事部に断片的に保有される。両者は人材の将来の可能性において「対称的無知」の関係にある。事業部門による人材の抱え込みは、組織情報-例えば新たに人材を必要とする新規事業の戦略的重要性-にたいする事業部門の理解不足と、個人情報-例えば人事考課など標語でないキャリア志向など「粘着性の高い情報」-にたいする人事部の収集不足という2つのタイプの情報の非対称性にもとづいて発生することがわかった。 次に日本とアメリカ資本の小売業の比較分析から、情報の非対称性は、情報システム特性と人事管理特性の補完関係によって類型化する「双対原理の組織モ-ド」において、日本型組織モードに根ざして生成すること、および人事権をライン・マネジャーに委譲するアメリカ型組織モードにおいては問題にならないことを、明らかにした。しかし、競争のグローバル化はアメリカにおいて実践された戦略オプションの学習を促すので、アメリカ型への変容は着実でもある。これはグループ経営改革および、ビジネス・プロセス改革の事例において観察できた。日本型の本社人事部への人事権の集中化は、程度の差こそあれライン分権化に変化する。しかし、これまでの日本型組織モードの諸特徴を維持しようとする抵抗もある。日本型組織モードはアメリカ型には完全には移行せず、したがって情報の非対称性は日本企業にとって変わらぬ人事管理の課題であることがわかった。
|
-
[Publications] 平野光俊: "キャリア発達の視点から見た社員格付け制度の条件適合モデル-職能資格制度と職務等級制度の設計と運用の課題-"経営行動科学. 第17巻・第1号. 15-30 (2003)
-
[Publications] 平野光俊: "企業グループ経営改革における組織モードと個人情報の非対称性の変容"経営研究(Business Research). No.50. 1-37 (2003)
-
[Publications] 平野光俊: "グループ経営改革と個人情報の非対称性"経営行動科学学会第6回年次大会発表論文集. 168-175 (2003)
-
[Publications] 平野光俊: "自律型キャリア開発と人的資源管理改革"日本産業カウンセリング学会第8回大会発表論文集. 79-82 (2003)
-
[Publications] 平野光俊: "人的資源管理における情報の非対称性の生成と克服-小売業2社の人事異動のケースを中心に-"神戸大学ディスカッションペーパー. 2003.5. 1-18 (2003)
-
[Publications] 平野光俊: "双対原理の2つの組織モードと個人情報の非対称性"神戸大学ディスカッションペーパー. 12003.11. 1-23 (2003)