2006 Fiscal Year Annual Research Report
ストレスの社会・文化的規定性とそれへの適応過程に関する研究
Project/Area Number |
15530332
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
田口 宏昭 熊本大学, 文学部, 教授 (20040503)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
八木 秀夫 奈良女子大学, 文学部, 教授 (00025074)
池田 光穂 大阪大学, CSCD, 教授 (40211718)
寺岡 伸悟 奈良女子大学, 文学部, 助教授 (90261239)
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Keywords | ストレス / システム / 家族 / 地域社会 / 適応 / 弾力性 |
Research Abstract |
恐怖、不安、精神的悩みなどによるストレスが過度になると人間は病気になる、とするHans Selyeのストレス学説を起点としたストレス研究は、自然科学、人文科学、社会科学にわたる広い領域で取り組まれるようになっているが、本研究においては前年度と同様、平成18年度においても社会学的・文化人類学的視点からの研究を継続して行った。本研究においてはストレス現象に、システム論的視点から取り組んだ。その場合、個人を対象に社会的・文化的脈絡のなかにおいて研究したのはもちろんだが、ストレスを受ける単位を家族や地域社会にまで広げ、ストレス源の特定とその社会的・文化的規定性、各々の単位がストレスに対してとる対処(適応)行動とそれに対するサポート・ネットワークの働き方について調査研究を通して明らかにしようとした。 分析の素材として用いたのは以下のようなものである(カッコ内は主要な分析単位)。(1)阪神淡路大震災の被災地である神戸を中心とする地域における、各種新聞等のメディアに掲載された被災者、ボランティア、その他の人びとの証言記録(個人、家族、地域社会)。(2)中越地震の被災地である長岡市山古志地区で平成18年10月に実施した面接聴き取り調査のデータ及び記録資料等(個人、家族、地域社会)。(3)都市圏からの人口流入が多数に上る沖縄県石垣市(石垣島)における、開発と環境・景観保護をめぐる住民対立と自治体の対応についての面接聴き取り調査データと記録資料(地域社会)。(4)中山間地農村における後継者の営農の動機づけに関する面接聴き取り調査データ(個人、家族、地域社会)。(5)本課題の科研費交付以前に実施した、障害のある子どものいる家族に対する調査のデータベースの分析。 分析から明らかになってきたことは、以下のようなことである。 (A)個人を単位においた場合、個人が受ける当該ストレスの強さは、それまでの日常生活のなかで経験したリスクに対して持っている彼(彼女)個人の判断枠組みと意味づけに規定される。(B)家族内での適切なコミュニケーションへの参加は、恐怖、不安、精神的悩みを軽減する機能を持つ。(C)停止したシステムの機能を代替する近似システムを臨時的に創生することが重要である。(D)上記(4)に見られる地域住民間の紛争が産み出すストレスの解決に文化的価値の調停者として自治体の役割が重要である。(以上の詳細については、別途研究成果報告書に示す。) システム論的視点からストレスを捉える場合、重要なことは、ストレスを実体化しないことであり、また社会的に伝承され、危機に臨機応変に対応可能な身体化された経験知と文化として共有された意味づけに規定された各単位システムの弾力性であり、これがストレスによって失われた単位システムの均衡を回復する根本的な資源となる。
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Research Products
(4 results)