2003 Fiscal Year Annual Research Report
ベトナムにおける高齢者に対する社会福祉対策の現状と課題-「都市部」と「農村部」の生活実態の比較調査研究を通して-
Project/Area Number |
15530375
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Research Institution | Tohoku Fukushi University |
Principal Investigator |
赤塚 俊治 東北福祉大学, 総合福祉学部, 助教授 (40285656)
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Keywords | ベトナムの社会福祉 / ベトナムの高齢化率 / ベトナムの高齢者福祉施設 / ベトナムの家族形態 / ベトナムの貧困問題 / ベトナムの高齢者単独世帯 / ベトナムの年金政策 / ベトナムの高齢化社会 |
Research Abstract |
初年度である平成15年度は、高齢者に関する文献・関係資料等の収集および実態調査を実施し、今日の高齢者が抱えている問題と課題について整理することを研究実施計画の最大の目的とした。しかし、当初の研究実施計画では「都市部」で路上生活を送っている高齢者と「農村部」の高齢者夫婦世帯、高齢者単独世帯の実態調査を行う予定であったが、時間的な制約があって「農村部」の高齢者のみを対象に70世帯の実態調査を実施した。また、高齢者福祉施策に携わる関係機関での聞き取り調査、文献、関係論文、資料収集などを精力的に行いながら、高齢者の基礎的生活問題と社会支援政策の現状に視点を絞って分析・考察を行い、最終年度(平成16年)につながる研究内容を実施した。 ベトナムの高齢者は、新しい社会生活の価値体系のもとで孤独感と無力感を感じながら生活困難に陥っている高齢者が多く存在している。とくに、統制計画経済政策からドイモイ政策に導かれた産業経済構造の変革は、飛躍的な経済成長を遂げるなかで国民間における所得格差や貧富の差を拡大させる一要因にもなった。このことによって、高齢者を取り巻く生活環境は都市部で生活している高齢者よりも農村部で生活している高齢者ほど極めて深刻な「社会問題」を発生させる要因にもなった。なお、ベトナムでは一般的に60歳以上を高齢者と位置づけているが、今後、センサスなどの資料から分析すると、老年人口が増加し、高齢化率が高まることが推測される。そのため生産手段を持たない高齢者に対する具体的な社会政策や社会支援サービスが今後のベトナム社会にとって大きな課題になることは紛れもない現実である。なかでも都市部の生活と農村部との生活を比較した場合、農村部ほど暮らし向きに直接関わる基礎的生活要求(BHN)である医療・保健、住居、食料、教育などが一般水準に達していない家庭が多く、そのなかでも収入源が低い高齢者ほど最低生活水準もしくはそれ以下の生活を余儀なくされていることが実態調査から分析することができた。政府が議決した「社会救助政策に関する政令」(CHINH SACH CUU TRO XA HOI : NGHI DINH SO 07/2000/ND-CP NGAY9-3-2000 CUA CHINI PHU)は、高齢者に関する社会政策だけではなく、孤児や生活困窮者といった支援対象児者を幅広く対象とした最も代表的な社会政策の一つといえる。この政令は、大きく分けて社会援助施設利用と社会補助金支給とに区分される。しかし、実態としては社会救助を享受できないで生活している多くの高齢者が存在している。とくに、社会補助金支給については農村部で行った実態調査では70世帯(ほとんどが低所得者層の高齢者の単独世帯と夫婦世帯で占めていた)の内、社会補助金を受けていた世帯は2世帯のみであった。その他の高齢者の経済状況は、生活を営むのに最低限度の生活を余儀なくされている。また、社会援助施設利用に関しても同じような状況にある。また、産業構造の変化にともなう「家族機能の変容」も高齢者問題に大きく影響を及ぼしている。とくに、これまで維持してきた家庭内での社会福祉の補完的機能としての相互扶助が機能しなくなってきている状況にある。そのために、高齢者扶養の機能低下を招き、結果的に高齢者夫婦世帯、高齢者単独世帯が増加傾向にあることが分析することができた。その社会的背景には農村部と都市部との間にはプッシュ要因とプル要因の因果関係が存在することを考察することができた。 今後、高齢者問題を解決するには、高齢者が地域で孤立しない社会支援システムを構築することが不可欠であり、そのための法整備の確立と国家的政策としての社会支援サービスの具体的な施策が早急に検討されることが望まれる。
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Research Products
(1 results)