2005 Fiscal Year Annual Research Report
知的障害者の高齢化にともなう認知機能の変容に関する生理心理学的検討
Project/Area Number |
15530436
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Research Institution | Jin-ai University |
Principal Investigator |
水田 敏郎 仁愛大学, 人間学部, 助教授 (00340034)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤澤 清 仁愛大学, 人間学部, 教授 (50020087)
吉田 和典 仁愛大学, 人間学部, 教授 (50143938)
保野 孝弘 川崎医療福祉大学, 医療福祉学部, 教授 (80238766)
大森 慈子 仁愛大学, 人間学部, 助教授 (90340033)
宮地 弘一郎 仁愛大学, 人間学部, 非常勤講師 (40350813)
権藤 恭之 東京都老人総合研究所, 福祉と生活ケア研究チーム, 研究員 (40250196)
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Keywords | 知的障害高齢者 / 予期的心理機能 / 心拍反応 / サッケード / S1-S2パラダイム |
Research Abstract |
本年度は,前年度までの各個別課題の検討を通して得られた結果の中から,高齢化にともない顕著に変化を示す指標をとりあげるとともに,知的障害を有する個別事例に焦点をしぼり詳細な高次認知機能の検討をおこなった.具体的には予期的心理機能に注目した.従来のS1-S2刺激からなる単純反応時間課題をベースに,S1を顔刺激とし,S2で提示される複数の顔刺激からS1を検出するものとした.さらに刺激間間隔の延長や注視点の介入など従来の標準的な刺激環境に修正を加え,健常若年成人や同高齢者を対象にボタン押し反応や視行動,ならびに心拍反応から検討を行った.その結果,若年成人群ではS1-S2間隔における心拍反応において,「第1減速(D1)-加速(A)-第2減速(D2)」の三相からなる典型的な一過性の変動はみられず,加速反応(A)が強調された形で2度連続的に出現した.これはS1として提示された顔刺激に対して,その特徴の分析や同化が図られたものと考えた.また,後半S2提示直後の刺激探索に関する方略の獲得にあわせて,反応時間の短縮や加速反応の低減が認められた.他方,高齢者群では正答率,平均反応所要時間などの指標はいずれも若年成人に比べると成績が劣っていた.心拍反応については個人差が大きかったが全体的に若年群に比べて変化が小さく,後半は前半に比べると低振幅であった.これらは前半試行における顔刺激に対する分析負荷がより大きいことを反映すると考えた.そして,後半における低振幅化は分析負荷の低減と加齢による心拍変動の減少によると思われた.次に,知的障害高齢者を対象とした同様の心理機能の検討を試みた.その結果,知的障害を有する2事例はともにS2として提示した複数の刺激のなかからターゲット刺激を検出するのが困難であった.そのうち1事例の反応所要時間は顕著に延長しサッケード潜時は比較的短かった.この事例の心拍反応にはS1に対する分析を反映したと思われる加速反応が短時間ではあるものの認められ,予期的反応を反映した減速反応も後続して出現した.これらのことからS1に対する分析の不十分さが低い正答率や長い反応所要時間に,そして予期的反応の形成が短いサッケード潜時にそれぞれ結びついたと考えた.別の事例では反応所要時間は比較的短くサッケード潜時は延長していた.本事例の心拍反応はS1提示直後から減速し,S1に対する定位的性格をもつ反応と位置づけた.また同事例では予期的反応がほとんど惹起されず,このことが原因となってサッケードの生起が遅れたと考えられた.以上より本パラダイム下で心拍指標を用いて検討すると,刺激の分析を含めた認知過程ならびに予期的反応の生起過程を展開的に捉えることが可能になるといえる.また心拍からその発現が推定された2つの心理過程は,行動指標の結果にも合致し,知的障害高齢者の高次認知機能の評価に有効であることが指摘できた.
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Research Products
(3 results)