Research Abstract |
乳幼児をもつ親は,子どもの感情・情緒状態を認知し,それに基づいて養育行動を行うと考えられる。本研究の目的は,このような情緒応答機能を明らかにする有用なツールである日本版IFEEL Pictures(JIFP)を用いて,臨床場面における育児困難事例のスクリーニングおよび母子支援の可能性を検討することである。 本研究は,テストの精度向上を目指す研究(基礎的研究)と,臨床場面における適用を通じて,スクリーニングおよび育児支援の方途を探る研究(臨床的研究)とから成る。平成15度は「IFEEL Story法」や母子関係の査定を目的とした「関係性評価尺度」の開発などの基礎的研究,および育児困難事例の検討などが行われた。また,16年度では,「関係性評価尺度」を使用して,母親・女子大学生,母親・妊婦,産後うつ状態の母親を対象に研究が行われた。これらの研究所見から,養育経験によって母親の情緒応答性はより育児に適したものへと変化するが,母親の健康状態によってはそれが障害される可能性があると考えられた。 本年度は,過年における研究成果を踏まえた上で,実際に保健センター等の臨床場面においてIFEEL Picturesを実施し,母子相互作用の行動観察と,母親に対する面接調査との照合を行った(長屋・村瀬・深津,2005)。その結果,臨床事例の母親のIFEEL Pictures反応は,母子相互作用時の行動特徴,および母親面接の所見と関係性があることが認められた。これらの結果から,IFEEL Picturesを実際の臨床場面に応用して,育児不安・育児困難,あるいは虐待等の問題を把握できる可能性が示された。 また,施行に当たっての問題点の検討を行い、施行方法を改良して「IFEEL Picturesマニュアル」(IFEEL Pictures研究会,2005)を作成した。マニュアルについては,今後さらに改良・改訂を加え,より明確で統一性のある施行方法の確立を進める予定である。このような試みにより,IFEEL Picturesは臨床場面での有効なツールとして活用できるようになると考えている。
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