Research Abstract |
本年度は4年間の研究の初年であり,数学教育における教室文化の先行研究を整理し,関連する研究成果をまとめた。その中で,構成主義の実践研究にはかなり重要な示唆が含まれていることがわかった。また,内外の研究者や教師の意見や資料を得て,研究の論点が明確になった。 特に参考になったのは,構成主義における「学習軌道」という概念とソシュールの言語理論を基にした「意味の連鎖」という数学学習モデルである。学習軌道は,米国ペンシルベニア州立大学のMartin A.Simonnが提唱したもので,構成主義者の間ではしばしば使われる用語である。わが国では「単元構想」とか「指導計画」に似たものではある。しかし,児童の学習を指導の中で把握して,学習の方向を決定していくという点では,違ったところがある。つまり,計画,実践,評価という指導のサイクルを明確にとらえ,児童の学習の軌道を見出そうとしているのである。教室文化の構成において,このような「指導のサイクル」に注目しなければならない。 また,記号を能記と所記という視点からとらえるソシュールの記号論に基づく「意味の連鎖」は,そのような学習軌道のモデルとなっている。米国イリノイ州立大学のNorma Presmegは,さらに入れ子式の網状にモデルを修正し,さまざまな例を示している。その中には,自転車の変速機から「反比例」を導くなど,興味深い教材が見られた。 さらに実際,小学校算数科の「小数のわり算」に関する授業記録を「ストリー化」する中で,教室文化をとらえようとした。これは,児童の発言や活動,表情を観察し,授業の「文脈」をとらえようとする作業である。この作業によって,わが国の教室文化の構成過程をとらえる視点がいくつか見られた。特に,「意味の連鎖」に比べて,「形式的段階」が初めから強調されており,文章題の中に設定されている「生活的知識」を問題解決や思考の道具とするという学習軌道が見られないという特徴である。また,分数の学習においてもこのような特徴が見られる。今後さらに,このような特徴を追究していく。
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