2005 Fiscal Year Annual Research Report
教室文化の構成過程と数学学習への影響についての研究
Project/Area Number |
15530579
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
佐々木 徹郎 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (20170681)
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Keywords | 教室文化 / 意味の連鎖 / 数学の架空性 / 天秤と方程式 / 記号化 / 認識の三角形 / 活動と反省 / わり算の筆算 |
Research Abstract |
本年度は4年間の研究の3年目である。教室文化の構成における数学学習過程を明らかにするため、学習理論を再検討し、国際比較の観点から授業の事例収集を行った。その中で、参考としたのは「意味の連鎖」の学習モデルとHeinz Steinbringの認識論的授業論である。 意味の連鎖については、中学校における「一次方程式」を授業事例として、数学の特質である「架空性」について考察した。架空性は、数学の特質の一つであり、理想的な対象数学学習における対象が、現実の事象から始まっているとすれば、どこでその架空性が創出されるのであろうか。意味の連鎖は、ソシュールの文化的記号論を基にして、具体的モデルから形式的モデルへの記号化の過程を説明する理論である。天秤を使った授業におけるある生徒の思考を追究する中で、記号化の過程で架空性が創出する事例を示した。ただ、ドイツのE.Wittmannによれば、方程式の導入において、天秤という具体物を使うよりも、生徒が既に学習している「式」を利用して、等式の性質を導くことも可能である。生徒の数学体験を基礎とする指導の重要性を再認識し、意味の連鎖への視点が理解できた。 Steinbringの認識論的授業論では、「認識の三角形」や「活動と反省」についての視点が参考となった。認識の三角形とは、対象/文脈と記号、概念からなる三角形であり、計算の意味や手続きの指導において重要である。また、計算の意味を構成する中で、児童の活動とその反省のプロセスを基本としている。 これらの観点から、昨年から継続している小学校4年生の「わり算の筆算」について考察を進めた。わり算の筆算は、小学校算数の中でも難しい手続きとなっている。このため、我が国における教室文化においては、計算の意味には余り時間がとられず、計算の仕方に大半の時間を費やすという伝統になっている。計算の手続きを重視する教室文化は、規則を覚えて、練習するという行動主義的な学習の基になっている。多くの生徒が高いレベルの数学を学習する今日、このような教室文化から新たな文化を構成し、生徒が計算の意味も理解するような学習にするにはどうするかを考察した。
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Research Products
(4 results)