Research Abstract |
本年度は4年間の研究の最終年であった。研究の総括として,教室文化の意義についてまとめた。教室文化は,国や地域,教育行政,制度,学校などの社会的文化によって規定された既成ものであるという性質がある。同時にまた,教師と児童・生徒,教材などによって構成されるものでもある。このような二重性格を,「教室文化の相補性」と呼んだ。さらに,このことと関連して,教室文化は,児童・生徒が作るものでありながら,児童・生徒の心や学習を構成する働きをもっている。これを,「教室文化の再帰性」と呼ぶことにした。これらの性格は,文化が本来もっている複雑性に起因しているものである。 まず,そのためには,妥当な教室文化は何かが重要である。つまり教室文化は,教室における学習のための「規範」としての側面がある。これを,「教室文化の規範性」と呼んだ。これは,教師の指導や児童・生徒の活動,そしてお互いの関わり方を確立するためのものである。そして,教室が数学的なコミュニティーとなることが重要である。そして,教師や児童・生徒の数学観と深い関係がある。 教室文化の特徴を考察すると,大きく2つに分類できる。機械論的なものと生命論的なものである。これは,ドイツのE.Wittmannがスイスの経営学者F.Malikの研究を参考として,数学教育に導入した概念である。生命的な教室文化は,全体性や多様性の重視,社会的・能動的な学習であり,数学化の過程やパターン科学としての数学観である。妥当な教室文化とは,生命論的な特質をもつ教室文化である。我が国にみられる児童・生徒の全員参加をめざす授業は,まさに生命論的なものである。 本年度には,生命論的教室文化を構成する観点から,小学校4年生に対して,「数のパターン」についての授業を実践し,分析・考察を行った。児童全員の多様な意見を取り入れながら,授業を構成するように意図した。児童は予想を越えるアイデアを出していった。
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