Research Abstract |
本研究に対し,今年一年,特に夏休み前までは,主に,準備の年であった。まず,自研究室にこの課題専用の数値実験用の計算機を購入し,OSと必要なソフトウエア,および,インテル純正のコンパイラをインストールした。そして,この計算機を用いて,本研究課題と関連のあるリーゼガング現象のパターン形成の問題のシミュレーションを行った.この現象は,3種類の物質の化学反応とその結果の生成物の沈殿という比較的単純なメカニズムで起こる「反応拡散+沈殿」系で観察されるパターン形成現象である。メカニズムの単純さにも関わらず,巨視的なスケールで観察されるパターンは,見事な幾何学的に美しい法則性をもつ。実際の化学的な実験においては,この法則はかなり以前より知られていたが,今回,私たちはその生成メカニズムをより深く理論的に考察することを目的とした。 まず,この現象を説明する比較的簡単な方程式系として,1980年代に導出されたケラーとラビノウの方程式系を用い,そのシミュレーションから化学実験で得られる巨視的なパターンと同様のパターンが再現されることを確かめた。そこで,このモデルを数学的にある種の特異極限をとることで,より本質的なメカニズムを凝縮させたモデルを導いた。このモデルについて,さらに,シミュレーションを重ね,この現象の本質的なメカニズムは,この縮約モデルに含まれていることを確信した。さらには,我々は,このモデルを数学理論的に解析することで,これまでは,化学実験的,もしくは,数値実験的にしか知られていなかった3法則のうちの2つを,この縮約モデルから,厳密に証明することに成功した。まだ,研究としては途中であり,ある意味で準備段階でもあるが,結果を京都大学で開かれた国際研究集会で発表し,その報告集に,途中経過発表的な意味合いで,短い論文を掲載した。
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