Research Abstract |
本年度の課題は,(1)ニッケル蒸着膜と二次元電子系間の距離と異常磁気抵抗の相関について,および(2)異常磁気抵抗のニッケル蒸着膜の膜厚ならびに形状依存性について調べることであった.これらはいずれも,二次元電子面における局所磁場分布と異常磁気抵抗の関係を調べることを意味する.そこで,本年度はさらに(3)印加磁場回転効果の実験を行った.すなわち,磁場を二次元面に斜めに印加することにより,ニッケル薄膜の磁化に異方性を生じさせ,局所磁場分布に異方性を与えることができる. 3種類のウェハーを用いて,ニッケル薄膜と二次元電子系の距離については,60nm,200nm,300nm,薄膜の厚さについては200nmと100nm,また,薄膜形状については円形の他に角を持つ3種類,計4つのパターンの試料を作製した.これら,合計16個の試料について,ホール抵抗Rxy,および縦抵抗Rxxの磁場依存性の測定を行ったが,いずれの試料においても異常磁気抵抗は観測されなかった.この原因の可能性として,作製した試料の電圧端子間隔が広いために検知できなかったことが考えられるが,すべての試料で観測されなかったことからその可能性は低く,現在のところ原因は不明である.今後の課題である. 印可磁場回転効果の実験では,これまでに異常磁気抵抗の確認されている円形薄膜をもつ試料を用いて,磁場中で試料を回転させることにより角度依存性を測定した.その結果,異常磁気抵抗が磁場の垂直成分に支配されていること,および,その大きさが角度依存性を持つことを見いだした.垂直成分に支配されていることは,電子の面内運動すなわちサイクロトロン運動がこの異常磁気抵抗を支配していることを示す.これは,サイクロトロン運動をする電子が磁場極小に沿った束縛状態を作るというモデルを支持する.また,磁場を傾斜させたときの二次元電子面内での磁場の垂直成分分布を計算して,その極小値と異常磁気抵抗の大きさの間に相関があることを見いだした.定量的精度はまだ不十分であるが,局所磁場分布と異常磁気抵抗の相関を見いだしたことは重要である.
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