Research Abstract |
今年度は,局所スピン密度近似(LSDA)を用いたFLAPW法バンド理論により,強磁性磁気秩序を示す充填スクッテルダイトの電子構造を系統的に調べた。 1.Eu系充填スクッテルダイトの電子構造の系統性 結晶構造の詳細な実験的報告のあるEuFe_4P_<12>,EuFe_4Sb_<12>,EuRu_4Sb_<12>の電子構造を計算し,いずれでもEuのf電子による安定な強磁性状態の解を得た。EuFe_4P_<12>は格子定数から価数揺動状態と言われており,Euの占有f電子数が7より少ないことから,矛盾しない結果である。一方,EuFe_4Sb_<12>では,Feのd電子も大きなスピン偏極を持つ。常磁性帯磁率より得られる有効磁気モーメントが,Eu^<2+>の理論値より6%ほど大きいことが報告されており,この差がFeのd電子によることを示唆している。EuRu_4Sb_<12>では遷移金属のd電子のスピン偏極が,計算した3つの物質中最も小さかった。EuFe_4Sb_<12>でFeのd電子のスピン偏極が最も大きくなったのは,Feのd状態が局在しているため,かつFeのd状態の準位が充填スクッテルダイトの中で最も浅いためである。 2.アルカリ土類系充填スクッテルダイトの弱い強磁性の起源 BaFe_4Sb_<12>,SrFe_4Sb_<12>,CaFe_4Sb_<12>,BaRu_4Sb_<12>,SrRu_4Sb_<12>の電子構造を調べた。この中で,Ru-Sb系では強磁性状態の解が得られなかった。一方,Fe-Sb系では,何れでもFeのd電子による安定な強磁性状態の解が得られた。Fe原子当たり約0.53〜0.54μ_Bのスピン偏極が得られたが,広島大グループによる実験値10^<-3>μ_B/Feと比べると,かなり大きな値である。参照系であるLaFe_4Sb_<12>は,バンド計算によるとやはり安定な強磁性状態の解を持ち,0.28μ_B/Feのスピン偏極を示すが,実験的には磁気秩序が報告されていない。したがって,Ba,Sr,CaのFe-Sb系でのスピン偏極は,バンド理論ではかなり大きく出ると言える。Ru-Sb系では強磁性状態の解を持たず,Fe-Sb系が持つことは,Eu系と同様,Feのd状態の特殊性のためである。
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