2003 Fiscal Year Annual Research Report
非平衡緩和法によるスピングラス相転移とその低温相描像解明の理論的研究
Project/Area Number |
15540358
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中村 統太 東北大学, 大学院・工学研究科, 助手 (50280871)
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Keywords | スピングラス / カイラリティ機構 / 非平衡緩和 / 並列計算機 / スピングラス相関長 |
Research Abstract |
平成15年度の研究計画の第2項に申請した、2次元Ising型スピングラス模型と3次元XY型スピングラス模型におけるスピングラス相転移の有無を明らかにするために研究を行った。 2次元Ising模型に関しては、スピングラス帯磁率の非平衡緩和過程の生データからは、T/J=0.6付近にスピングラス相転移があるようにみえるが、この温度よりも高温側のデータを用いた有限時間スケーリング解析によると、相転移温度はT/J=0となってしまう。一方、Tc=0であるならば、T>0のすべての温度のデータは一つのスケーリング曲線に乗るはずであるが、これもT/J=0.6よりも低温のデータは緩和過程の振る舞いが急激に変化し、同一のスケーリング曲線に全く乗らないことがわかった。もし、この模型にスピングラス相転移がTc=0を含めて存在するならば、何らかのスケーリング曲線に乗るはずである。従って、本研究の結果より、この模型にはスピングラス相転移がそもそも存在しないことが明らかになった。 3次元XY模型に関しては、本研究補助金により購入した並列計算機による計算によって、スピングラスとカイラルグラス相転移がほぼ同時に起こることがわかった。スピングラス帯磁率の非平衡緩和過程の生データ、およびそれらを用いた有限時間スケーリング解析の結果がすべて矛盾なく有限温度のスピングラスとカイラルグラスの同時相転移の存在を指示した。また、求められた転移温度近傍でのスピングラス相関長の非平衡緩和過程を測定した。これは、スピングラス的な秩序が時間とともにどれくらいの長さまで発達しているのかを直接観測したもので、おそらく世界初のデータである。それによると、スピン、カイラル、ともにほぼ同じ指数を持った冪発散を示し,スケーリング解析の結果を強く支持した。また、有限サイズ効果の現れ方も検証し、相関長が系のサイズのわずか1/10まで発達したときからサイズ効果が現れることがわかった。これは、スピングラス模型にではサイズの効果が非常に強いため、ある程度大きなサイズを用いた計算が不可欠である事を示している。 本模型において川村によって提案されたカイラリティ機構に関しては、この理論がスピングラス転移が存在しないことに立脚しているため、本研究結果はこの理論の妥当性に強い疑問を投げかける。川村らによる計算の系のサイズが非常に小さく、有限サイズ効果が強くでたため正しい結果が得られなかった可能性が高いことがわかった。これらも相関長の非平衡緩和解析から明らかになった。 平成15年度研究計画の第1項であるHeisenberg模型の計算については、本研究課題が10月からの追加採択であったためその遂行を次年度以降に先送りすることにした。
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