2004 Fiscal Year Annual Research Report
非平衡緩和法によるスピングラス相転移とその低温相描像解明の理論的研究
Project/Area Number |
15540358
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Research Institution | Shibaura Institute of Technology |
Principal Investigator |
中村 統太 芝浦工業大学, 工学部, 助教授 (50280871)
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Keywords | スピングラス / 非平衡緩和 / 動的臨界指数 / スピングラス相関長 / 液滴描像 |
Research Abstract |
本研究課題の中心的課題である3次元ハイゼンベルグ型スピングラス模型に関する研究とともに、イジング型およびXY型の研究もあわせて行った。スピングラス相転移の有無と低温相描像とは密接に関わっているので、各々の模型に対して相転移温度と思われている温度を境に、低温高温両方の温度領域で網羅的に数値シミュレーションを行った。用いた手法は前年度に開発した、スピングラス相関長の緩和関数の直接測定である。また、計算には本研究補助金により自作した並列PCクラスターを用いた。 スピングラス相転移の存在が確立しているイジング型の模型において、低温相における相関長の緩和関数が時間とともに冪的に発散し、その指数が温度に比例することを確認した。これは、他の先行研究によって既に知られていることであり、スピングラス相の特徴の一つであると考えられている。しかし、本研究ではこのスピングラス相的な振る舞いが相転移温度を超えた高温相でも非平衡緩和領域において見られることを見出した。これは、従来考えられていた高温相における緩和過程の振る舞いとは異なるが、スピングラスの緩和現象をより簡単に説明することができる。スピングラス低温相の液滴描像の動的性質が、相転移とは無関係に高温相まで続いているのである。スピングラス状態の液滴が唯一つあり、それが時間とともに冪的に成長していく液滴描像のシナリオが成り立つ。この成果によって、低温相描像と相転移の有無をリンクして解明しようとする本研究課題の視点が正しいことが明らかになった。 イジング型で行った計算を、ハイゼンベルグ型およびXY型でも行った。得られた結果はイジング型と同様に、相関長が温度に比例した冪で発散するものであった。また、スピン自由度、カイラリティ自由度ともに、冪の指数は異なるが、定性的に同じ振る舞いをした。ただし、冪発散が始まる時間がイジング型に比べると非常に遅く、冪的振る舞いをする温度領域も限られたものであった。これらの連続スピン系のスピングラス模型においても、イジング型と非常に似通った低温相描像が成り立つことがわかった。また、スピンとカイラリティの関係は、両者が分離することなく、いつも同じように振舞うことがわかった。これは、川村によるカイラリティ理論と著しく異なる。 これらの研究とは少し外れて、最終年度に予定している量子スピングラス研究の準備研究として、ここ数年来行ってきたランダム量子スピン鎖における磁気秩序発生に関する計算も行った。その結果、他の先行研究で予言されていた磁気構造が実際には現れないことを明らかにした。
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Research Products
(3 results)