Research Abstract |
自動車排出ガス中の一酸化炭素,窒素酸化物及び炭化水素等の大気汚染物質を浄化するための三元触媒(白金・パラジウム・ロジウム系)は,400〜1000℃という過酷な条件下で使用されている。それゆえ,自動車の走行距離が5万kmを越えると触媒劣化を生じ,排ガス浄化触媒の貴金属が遊離放出されて環境汚染を引き起こし,大気微粒子と共に人間の肺に吸入されると呼吸器の癌や喘息の一因となる可能性がある。 そこで,まず中古車及び廃車の車種,年式及び走行距離,三元触媒の位置から排気管出口までの距離等を考慮して,排気管及びマフラーの内壁に付着しているススを採取し,排ガス浄化触媒から遊離したスス中の貴金属について調べた。 スス試料は,電気乾燥機で80〜110℃で乾燥後,超音波による硝酸-過塩素酸,過酸化水素等による湿式分解を行い,0.1〜10M塩酸溶液とした。試料溶液中の各種金属成分は,フレーム及びフレームレス原子吸光法,誘導結合プラズマ発光法で直接または標準添加,抽出分離濃縮等により定量した。 スス中の貴金属の含有量(Pt:11〜32ppm, Pd:7.0〜19ppm, Rh:2.1〜25ppm)は,自動車の走行距離に比例して噌加し,排気管では三元触媒に近い側から貴金属が多く検出される傾向が見られた。ロジウムは窒素酸化物の還元触媒,パラジウムと白金は一酸化炭素及び炭化水素等の酸化触媒として働くものであるが,一般に,軽自動車ではロジウムとパラジウム,普通乗用車ではロジウムと白金が検出された。これは,三元触媒が長時間酷使されるにつれて徐々に熱劣化(アルミニウム単体の相転移に伴う劣化,酸化物固相反応による劣化等)して飛散し,マフラー及び排気管の内壁にススと共に付着したと考えられる。また,ススの無機成分として,貴金属以外には,Na, Ca, Fe, Zn>Al>Si>Mg, Mn, Ni>Ce>V, Zrなどが10.7〜5440ppmほど検出されたが,Ba, Co, La, Moは検出限界以下であった。これらの成分は,三元触媒の熱的安定向上剤,触媒の酸素貯蔵能付与剤及びガソリンなどのオイルへの燃焼改良添加剤等に起因し,大気汚染の一因になっていると思われる。
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