Research Abstract |
本研究の目的は,1.軸不斉1,1'-ビフェナンスレン型天然物(-)-blestriarene Cの光ラセミ化機構を解明すること,2.本反応の他のビアリール化合物への適用と限界を示すこと,3.本反応を利用するラセミ体ビアリール類の光学分割法,光学活性化法を開拓することである。本年度も,昨年度に引き続き研究実施計画に従って研究を進め,以下の知見を得た。 まず,昨年度に合成したblestriarene Cおよびその類縁体の酸化還元電位をサイクリックボルタンメトリー(CV)により求め,ラセミ化活性との相関を調べたところ,酸化還元電位が低い化合物ほどラセミ化しやすいことがわかった。また,ラセミ化しやすいblestriarene Cとラセミ化しにくい1,1'-ビフェナンスレン-2,2'-ジオールのフェナンスレン環を一つずつもつ非対称ビフェナンスレンを合成し,蛍光灯によるラセミ化活性を調べたところ,この化合物はラセミ化しやすいことがわかった。これらの結果とこれまでに得られた知見から,blestriarene Cが光照射下に酸素により一電子酸化されて得られるラジカルカチオンを中間体とするラセミ化機構を提案した。また,一つのナフタレン環に3つの水酸基を持つ1,1'-ビナフタレンを合成しラセミ化活性を調べたが,ラセミ化は起こらなかった。CV測定の結果,これまでに合成した1,1'-ビナフタレン類は,可逆的な酸化還元挙動を示さず,このことがラセミ化しない原因と考えられた。
|