Research Abstract |
超伝導発現を目指した物質開発として,従来研究されてきた有機ドナー分子であるテトラチアフルバレン(TTF)やテトラチアペンタレン(TTP)誘導体の共役π電子系を縮小した新たなドナー分子の開発と,それを基にした電荷移動型ラジカルカチオン塩の物性研究を行なってきた。有機ドナー分子のπ電子系を縮小することは,同一分子上に電荷が存在した際生じるクーロン反発,つまりオンサイトクーロン反発を,従来の有機導体の設計指針とは逆に増大させることになり,化学的な分子修飾によって,電子相関を強めることが出来る。これまでに,TTFの縮小π電子系であるDODHTから3種類の超伝導体を発見している。 今年度の研究業績として,新たなTTPの縮小π電子系の設計・合成を行なった。これまでTTP系の縮小π電子系の合成では,置換基によっては収率が極端に低かったり,分離生成が困難な副生成物の生成があったが,合成法を改良することにより,反応段階数の減少,全収率の向上,副生成物生成の抑制に成功した。この結果,これら縮小π系TTP誘導体を用いた物性研究も可能となった。また,超伝導体を与えるDODHTのラジカル塩に関しては,その磁気物性を詳細に調べることにより,常圧における絶縁体相が,電荷秩序相(チャージオーダー)であることが明らかとなった。絶縁体相に電荷秩序があることは,X線構造解析の温度変化を調べることによって確認された。超伝導相の近傍に電荷秩序相が存在する系は,無機物質においてつい最近発見され,超伝導発現のメカニズムの解明を含め非常に興味がもたれている。今回の系で,有機導体の系でも超伝導相の近傍に電荷秩序絶縁体相が存在していることが,実験的にはじめて確認されたことになり,有機超伝導体研究の分野において,非常に有意義な結果が得られた。これらの結果に関しては,現在投稿準備中である。 さらに,TTFをドナー成分に,C_<60>フラーレンをアクセプター成分に用いたドナー-アクセプター系ダイアッド分子を新たに合成した。このようなダイアッド分子は,有機太陽電池など有機薄膜デバイスへの応用の観点から非常に興味がもたれている系である。今回の分子は,従来のC_<60>-TTF系と異なり,基底状態で分子内電荷移動相互作用が強く,また,C60とTTFの接合位置により,分子内電荷移動をコントロール出来ることを見出した。また,今年度はこのダイアッド分子の有機デバイスへの応用を目指して,静膜性を向上させるため長鎖アルキル基を導入した分子,および電荷分離状態の寿命を大きくするため,デンドリマー構造を導入した超分子系の合成に新たに成功した。
|