Research Abstract |
平成17年度は,[Pd(dmit)2]塩のような弱い常磁性体(有機導体)試料(約0.0005emu/mol程度の磁化率)の磁化率を圧力セル中で正確に測定するための条件の確立を,この研究課題の主な目標とした。これは,5Tの磁場中で,温度変化(4-300K)がほとんどない約0.0002emu程度の平坦で安定したバックグラウンド磁化を示す試料保持法によって初めて可能になる。繰り返して実験してみた結果,この要求を満たす条件を確立するまでには,試料ホルダーの材質と形状・圧力媒体の種類と充填法など細部の実験方法について,多数の試行錯誤による条件探索が必要であった。最終的には,フッ素樹脂(PTFE)製の薄肉円筒状カプセルに媒体と試料を詰め,フッ素樹脂(PCTFE)製の円柱状スペーサで密封したものを,対称性よくベリリウム銅製圧力セル内空間(内径2.7mm)に圧力媒体(ダフニーオイル)とともに挿入後,減圧して十分に脱気する,という手順でのみ,満足すべき結果が得られた。用いる器具や圧力媒体の材質を変えると,常磁性不純物による磁化の温度変化や媒体固化に伴う内部亀裂の発生により,不適切な状態になる。以上の実験に基づき,三角格子量子反強磁性体である[Pd(dmit)2]塩のうち,低温で磁気相転移を起こすものに注目して,相転移に対する圧力の効果を測定した。特に(C2H5)(CH3)4P塩が二次元系としてスピンパイエルス転移を示す初めての物質であることを平成17年度に発見したので,これに対する圧力効果を測定した。前年度に発見した(C2H5)2(CH3)2Sb塩の電荷分離転移に対しては,分光測定の結果を解析して相転移機構を明らかにして公表し,圧力効果の実験も進めた。これらの最終結果は,学会および論文誌で公表することにしている。
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