Research Abstract |
昨年度までに,基板の表面エネルギーが小さいほどCu薄膜の結晶子サイズが小さくなり,また,残留応力は結晶子サイズが小さいほど高くなることが明らかとなった.本年度は,まず,薄膜の厚さが異なる場合の結晶子サイズおよびその膜厚方向の分布と,残留応力との関係を実験的に検討した.次いで,残留応力の,基板表面エネルギー依存性と膜厚依存性の両者を,統一的なモデルで説明できるかどうか検討した. ・試験片:昨年度までと同様に,シリコン単結晶基板,および,シリコン単結晶基板上にPTFEをスパッタにより形成したものの,計二種類の基板を用い,その上にCuのスパッタ薄膜を形成する.膜厚を0.5mmから3mmまで数段階で設定した. ・結晶子サイズ観察:透過電子顕微鏡により,薄膜内の膜厚方向の結晶子サイズ分布を検討した. ・残留応力測定:X線回折を原理としたsin^2ψ法により残留応力を測定した.なお,実験室のX線管球から発生するX線では,薄膜においては輝度(フラックス)が足りないため,シンクロトロン放射光を用いた.ただし,ビームエネルギーは5keV前後の低い領域を用いて,基板からの散乱X線を低減し,高精度な残留応力測定を行った. ・解析:真性応力モデルを用いて,Cu薄膜の残留応力における基板表面エネルギー依存性と膜厚依存性の両者を統一的に説明できるかどうか検討した. 以上から,以下の結論を得た. (1)Cuとその被成膜面の表面エネルギーの違いにより,成膜時にCu粒子が付着した際の濡れ性が異なるため結晶子サイズが異なる.また,膜の成長にともない被成膜面の表面エネルギーの影響が減少し結晶子サイズが変化するため,膜厚方向に結晶子サイズの分布ができる. (2)完全に膜状となる数百nm以上の膜厚においても,発生する残留応力は結晶子サイズに依存する.つまり,今回測定した残留応力の主要因は結晶の接触時に発生する真性応力である. (3)被成膜面の材質あるいはCu層の膜厚によって,Cu層の残留応力が異なるという実験結果は,被成膜面の表面エネルギーの違いに起因する結晶子サイズの違い,およびその膜厚方向の分布の違いから説明できる.
|