Research Abstract |
最進,『森から海まで』『流砂系』という言葉に代表されるように,陸域-河川-海域を一体として物質輸送を捉え,広域土砂管理や水環境保全を行うことの重要性が認識されてきおり,今後は,広域水環境系として陸域-河川-海域を一体としてとらえた水・物質循環の実態解明やモデリングの重要性が益々高まってくることが予想される.特に,海域と河川の両者の影響を強く受ける河口域では,両者の相互作用系として水環境特性を捉えることが不可欠であり,最近注目されている河口干潟域の保全及び自然浄化機能評価の面からも河川-海域間の相互過程に基づく水環境形成機構の実態把握が求められている.そこで本研究では,河川-沿岸域間の動的な水環境形成過程の実態を把握するために,水域の最も基本的な環境要素である水温に着目し,東京湾及びその周辺河川を対象として,(1)長期的な水温変化の傾向分析,(2)河川〜海域の両者の影響を受けた河口域の冬季熱環境の実態計測,を行い相互作用系としての河川-沿岸域系の特徴を把握することを試みた.その結果,東京湾では冬季を中心として水温上昇傾向にあり,東京湾に流入する河川にも冬季に水温上昇の傾向が見られること,一方,同じ閉鎖性水域でも伊勢湾,大阪湾では水温変化の傾向が東京湾ほど顕著でないことがわかった.さらに,1966〜1975年及び1993〜2003年のそれぞれ10年間の各月平均水温から東京湾全体の貯熱量年間変動パターンを調べた結果,貯熱量は10〜3月の期間において近年大きくなっており8×104TJ程度増加(湾全体平均で1℃程度上昇)していること,また,貯熱量の増加とともに高塩分化の傾向があり,東京湾の水温上昇は外海域からの熱供給の増加が主要な原因の一つであることがわかった.さらに,荒川河口域における冬季熱環境計測から,河口域の基本的な熱フラックスの構造を明らかにし,冬季の東京湾から荒川への熱供給が海面冷却効果の10倍に匹敵するオーダーであること,また降温期の河川-海域間の熱フラックスは朔望周期で変化し,小潮期終了と伴に河川から海域へ熱が排出され,その後大潮期〜小潮期にかけて海域から河川へ熱が供給されることで,河口域に蓄熱される構造があることを示した.
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