2003 Fiscal Year Annual Research Report
蛍光染色による精子の生死判定法を用いた精子競争のメカニズムの解明
Project/Area Number |
15570019
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
林 文男 東京都立大学, 理学研究科, 助手 (40212154)
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Keywords | 昆虫 / 精子 / 配偶行動 / 交尾器 / 生活史 |
Research Abstract |
トンボ類では、複数のオスと交尾したメスが産卵するとき、最後に交尾をしたオスの精子が受精に使われることが知られている。メスは精子を体内にある2つの袋(交尾嚢と受精嚢)に貯えるが、それぞれの袋が実際にどの程度の貯精能力を有するかは不明のままであった。そこで、カワトンボとミヤマカワトンボという近縁の2種のトンボ類について、野外で採集してきたメスの交尾嚢と受精嚢内に貯えられている精子の生存率を二重蛍光染色法によって測定した。その結果、ミヤマカワトンボでは、受精嚢が大きく、その中に貯えられている精子数も交尾嚢より多い傾向があった。また、受精嚢の精子の方が交尾嚢の精子より生存率が高かった。つまり、受精嚢は精子の貯蔵という点で特化した機能をもっていると考えられる。一方、カワトンボでは、受精嚢が著しく退化しており、その中の精子数は少なく、死んだ精子の割合が交尾嚢内の精子よりも高い。つまり、精子は交尾嚢内で貯えられる。これら2種のオスの交尾器は特異な形態をしているが、2種ともに同型で、これまで精子を掻き出す機能があると信じられてきた。しかし、上述したように、カワトンボではより手前に位置する(産卵口に近い)交尾嚢に精子を貯え、ミヤマカワトンボではより奥に位置する(産卵口から遠い)受精嚢に精子を貯えるため、精子を掻き出すための器官である交尾器が2種ともに同じ形態をしていることには矛盾がある。これら2種の交尾器は、単に精子を掻き出すだけではなく、他に重要な機能があるのではないかと推定される。その点を今後解明しなければならない。
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