Research Abstract |
研究材料としてカワトンボとミヤマカワトンボを用い、精子の量と質の比較を行った。2種ともに,メスの体内には,交尾嚢と受精嚢と呼ばれる2つの精子貯蔵器官を有している.一方,オスの交尾器の先端には,交尾嚢の中の精子を掻き出す器官(耳掻き状の反転部)と受精嚢の中の精子を掻き出す器官(ブラシ状の側突起)が備わっている.ミヤマカワトンボでは,交尾嚢,受精嚢ともに多くの精子が貯えられており,精子の生存率は交尾嚢,受精嚢ともに高く維持されていた.これに対し,カワトンボでは,受精嚢が著しく小さく,ここに精子を貯えているメスの割合は少なかった.また,受精嚢内に精子が貯えられている場合でも,精子の生存率は交尾嚢に貯えられている精子よりも低い傾向があった.つまり、カワトンボでは,受精嚢は精子の貯蔵器官として利用されていないと考えられた.それにもかかわらず,カワトンボのオスの交尾器には,ミヤマカワトンボと同様,ブラシ状の側突起が発達していた.従来,オスの側突起は受精嚢の中の精子を掻き出すための器官としてのみ考えられてきたが,他の機能(交尾嚢内で交尾器の位置を確保したり,支持したりする機能など)を有する可能性があり,今後の検討が必要である.ミヤマカワトンボでは,交尾中および交尾直後の精子の挙動を明らかにするために,ハンドペアリング法によって交尾を行わせ,途中で交尾を中断させる実験も行った.その結果,交尾嚢内の精子については,オスによってほぼ全てが掻き出されることがわかった.しかし,受精嚢内の精子については掻き出しは不充分であった.受精嚢は左右の細長い袋からなるが,多くの場合,オスは片方の袋の精子しか掻き出せなかった.つまり,メスの生殖器のうちの受精嚢は,オスによる精子の掻き出しを防ぐ機能を有していると考えられた.
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