2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15570196
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中野 良彦 大阪大学, 人間科学研究科, 助教授 (50217808)
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Keywords | 直立二足歩行 / 下肢関節 / 伸展制限 / トレッドミル / 関節角度変化 / 人類進化 / 酸素消費量 / エネルギー効率 |
Research Abstract |
直立二足歩行はヒトの最も基本的な特徴であり、その歩行における下肢関節の運動にはヒトに特有な2つの機能が見られる。1つは股関節の過伸展であり、もう1つは膝関節の180度近い伸展である。しかし、人類進化におけるこれらの特徴の獲得過程についてはまだよくわかっていない。その解明を目的として、現代人に膝関節、股関節の伸展を制限した歩行を行わせ、通常歩行との差異について運動学的分析を行ってきた。実験は、主として三次元運動解析装置とトレッドミル装置を用いた運動学的実験とテレメーターを用いた筋電図法により行い、以下のような結果を得た。股関節制限歩行では、時間の経過により上体の前傾が大きくなる。これは股関節の伸展が制限されると股関節周りの筋(大腿直筋、外側広筋、脊柱起立筋、大殿筋)が常に活動する必要が生じ、短時間で筋疲労が蓄積するためであると考えられる。このことから股関節制限歩行では長時間の歩行は困難である。これは筋電図および呼吸代謝の計測結果からも示されている。膝関節の伸展の制限は、歩行時間には影響がなく、歩行速度に関係することが示された。これらの結果から、初期人類の直立二足歩行には上体を直立させるための股関節の大きな伸展が必要であったと考えられる。アファール猿人の化石研究においては、股関節の過伸展がすでに獲得されていたかどうかについては議論が分かれているが、本研究の結果からは、かなり早い段階で獲得されていたと考えられる。また、地上二足性の進化以前の半地上性であった段階で、脊柱起立筋の発達、関節可動域の拡大、脊柱の形状変化が起きていたことも示唆された。これらの結果とそこから展開される諸分野への応用についてのシンポジウムを第60回日本人類学会大会(高知)において「二足性の起源と現代人の体に遺された問題点」というテーマで開催し、人類学以外の整形外科学、生体力学といった分野からの討論を行った。
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