2003 Fiscal Year Annual Research Report
十全大補湯のアトピー性皮膚炎治療における基礎と臨床両面からの解析
Project/Area Number |
15590607
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
荻原 幸夫 名城大学, 薬学部, 教授 (70080166)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
能勢 充彦 名古屋市立大学, 大学院・薬学研究所, 講師 (60228327)
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Keywords | アトピー性皮膚炎 / 漢方方剤 / 十全大補湯 / NCマウス / 2,4,6-trinitrochlorobenzne / トランスクリプトーム解析 |
Research Abstract |
十全大補湯は、NC/Jicマウスを用いたハプテン反復塗布慢性皮膚炎モデルにおいて、著しい皮膚炎の軽減、その進展抑制を示し、さらに血清総IgE濃度についても強い上昇抑制効果を示した。そこで、その作用機序を検討するために、炎症局所である耳介の組織標本を作製して観察したところ、十全大輔湯投与群では、表皮や真皮における細胞浸潤を伴う肥厚が抑制され、また基底層を中心としたマスト細胞の増多、脱顆粒像などといったヒトアトピー性皮膚炎用の組織変化が軽微であった。そこで、各個体の真皮・表皮について、ランダムに5視野ずつ選び、表皮内に浸潤しているリンパ球と真皮内に浸潤している好酸球をそれぞれ計数する半定量的な解析を試みたところ、十全大補湯投与群では有意に各細胞浸潤を抑制していた。さらに、所属リンパ節である頸部リンパ節における細胞組成についてフローサイトメトリーにより検討したところ、T細胞・B細胞組成やCD4/CD8陽性細胞比など、皮膚への細胞浸潤の結果と比較して相関のある結果を得た。また、耳介や頸部リンパ節における各種サイトカインやケモカイン、ケモカインレセプターmRNA発現についてRT-PCR法を用いて検討したところ、耳介では十全大補湯投与によりTNFα、IL-4、eotaxin、CCR3などのmRNA発現の上昇が抑制されており、また頸部リンパ節でも同様に組織レベルで観察された作用を支持する結果を示した。これらの結果は、十全大補湯の作用点がT細胞ならびに好酸球にあることを示唆するものである。 さらに、蛍光ディファレンシャルディスプレイ法を用いたトランスクリプトレム解析を行い、これまでに頸部リンパ節で対照群により発現が上昇し、十全大補湯投与によりその発現上昇が抑制されたものとして、MRC OX-2 antigen geneとMHC classII beta geneのcDNA断片を同定し、抗原提示細胞も十全大補湯の作用点の一つになっていることを推定した。 以上のように、十全大補湯は、結果としてT細胞や好酸球の浸潤や活性化を抑制して、ヒトアトピー性皮膚炎様の慢性皮膚炎モデルの症状を軽減、進展を抑制していることが明らかとなった。 臨床においても、冬季に悪化する乾燥性の皮疹を持つ患者に有効ではないかという予備的知見を得ており、今後の解析が期待されている。
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