Research Abstract |
胆嚢癌は診断時には進行癌であることが多く,臨床標本よりその発癌メカニズムについて解析することは困難である.BK5.ErbB2トランスジェニックマウス(以下Tg)(Cancer Res 61:6971-6976,2001)はErbB2を過剰発現し,生後3ヶ月でほぼ100%に高分化型胆嚢癌を発症する.しかしながら,本Tgの胆嚢発癌にかかわるErbB2活性化のリガンドやErbB2シグナル伝達機構の詳細は不明である.一方,乳腺細胞ではそれ由来の粘液糖蛋白(Muc4)がErbB2と複合体を形成することより,乳癌の発生に影響することが最近報告されている.本Tgにおける胆嚢癌発生のメカニズムについて,ErbB2シグナル伝達機構の活性化の点より検討するために,Tg胆嚢癌における粘液糖蛋白の発現プロフィールを出生後より経時的変化を解析し,さらにMuc4とErbB2の複合体形成についても検討した.生後2,4,8,12週のTg胆嚢について胆嚢癌の発生頻度,ムチン遺伝子プロフィール(PCR),Muc4発現(PCR, ISH, IHC),Muc4とErbB2の複合体形成(免疫沈降)について解析を行い,ワイルドタイプマウス(Wt)と比較した.またTg胆嚢の癌部および非癌部におけるMuc4発現の比較(PCR, IHC),胆嚢癌部とErbB2の過剰発現が認められる気管,食道,前胃におけるMuc4発現の比較(IHC)についても検討した.本Tgにおける胆嚢癌の発生頻度は2週(50%),4週(43%),8週(67%),12週(100%)であった.12週Tg胆嚢癌ではWtに比して,Muc1,Muc3の転写レベルは低下していたが,Muc4は799-1732%まで増加していた.ISH・IHCの解析よりMuc4mRNAおよび蛋白はTg胆嚢癌の癌上皮に顕著に発現していた.またIHCよりMuc4はErbB2と同一癌上皮部位に発現していた.免疫沈降の結果よりMuc4はErbB2と複合体を形成していた.Tg胆嚢癌におけるMuc4発現強度の経時的変化は,生後2週では++,生後4週+++,8週+++,12週+++と2週を除いて顕著な発現を示していた.2週Tg胆嚢において,非眼上皮においても微弱なMuc4発現(+)は認められたが,癌部(++)は非癌部(+)に比してその発現は有意に増加していた.胆嚢癌部に比して,気管,食道,前胃におけるMuc4発現は微弱(+)または陰性(-)であった.本TgにおけるMuc4発現は,胆嚢癌部位のみに過剰発現が認められたこと,癌部は非癌部に比して顕著な発現が認められたこと,出生早期より高齢の胆嚢癌において顕著な発現が認められたこと,ErbB2と複合体を形成することより考えて,胆嚢発癌またその進展にかかわるErbB2シグナル伝達機構の活性化(ErbB2のチロシンリン酸化など)に重要な役割を演じていることが推測された.
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