Research Abstract |
hypoxia-inducible factor-1(HIF-1)は低酸素刺激に応答する転写因子で,赤血球生成因子,血管新生因子,解糖系酵素や糖輸送に関する因子等,様々なストレス応答因子を制御していることが知られている.また,その幅広い標的遺伝子群からみて,癌を含む,多くの疾病で重要な役割を果たしていることが予想されている.一方,申請者らは,継続的な研究の結果,HIF-1α活性化が口腔扁平上皮癌の腫瘍内血管新生やそれに伴う腫瘍増殖に大きく寄与していることを発見した.本研究は,口腔扁平上皮癌細胞において重要な役割を果たしているHIF-1α機能を制御する物質が,癌細胞の制御に有効であるか,その作用機構の詳細を分子生物学的に明らかにし,有効で有害反応の少ない,がん分子標的治療へ応用展開することを目標として開始された.解析に用いる細胞株を検討するため,子宮頚癌細胞株HeLaと6種の口腔扁平上皮癌細胞株(KB, HSC2,HSC3,HSC4,KOSC2,Ca9-22)にhypoxia-response element連結luciferaseレポーター(HRE-Luc)を遺伝子導入し,各細胞固有のHIF-1転写活性化能を比較した.その結果,HeLaが最も強い低酸素応答性を示した.一方,口腔癌の中では,HSC2とHSC3が最も強く,KOSC2とCa9-22が中間,KBとHSC4が最も弱い応答性を示した.これらの中でHeLaやHSC2を用いて試した化合物の内,興味深い事に,マレイン酸イルソグラディンは濃度依存的に2相性にHIF-1転写活性化能へ影響を与えた.すなわち,HRE-Luc遺伝子を導入した細胞株を低酸素下培養し,様々な濃度のイルソグラディンにて処理したところ,1〜10nMの低濃度では転写活性化能を増強し,1μM以上の高濃度では抑制(〜50%)作用を示した.本研究において,口腔癌の増殖に関わると考えられるHIF-1機能を制御する化合物を見出し,分子標的治療開発の可能性を示すことができた.
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