Research Abstract |
前年度において,環境汚染菌の代表的存在である緑膿菌を対象とし,バイオフィルム形成能と消毒剤感受性を環境由来菌とヒト由来菌で比較し,バイオフィルム形成時は消毒剤により抵抗性を示し,それはヒト由来菌に顕著なことを明らかにした.本年度は,もう一つの環境汚染菌の代表であるセラチア菌を対象として,感染経路追求法として有用とされている分子疫学的手法のうち,Random amplified poly-morphic DNA polymerase chain reaction(RAPD-PCR)法(プライマー1〜3の3種を使用),Pulsed field gel electrophoresis(PFGE)法とInfrequent restriction site PCR(IRS-PCR)法の3方法について,感染看護分野への導入の視点から,感染経路(菌株)識別精度,簡便性および経済性について比較検討した.その結果, 1.供試16株は,RAPD-PCR法のプライマー1,2および3で,それぞれ15,13および7タイプの遺伝子型に識別された.また,PFGE法およびIRS-PCR法では,それぞれ13と9タイプに識別された. 2.これら3方法の結果を総合すると,16菌株は互いに異なる遺伝子型を有するものと考えられた. 3.16菌株すべてが識別された場合を100%の識別精度としたとき,3方法のうち最も高い識別精度を示したのは,RAPD-PCR(プライマー1)法で93.8%,次いでRAPD-PCR(プライマー2)法とPFGE法で81.3%,最も低かったのはRAPD-PCR(プライマー3)法の43.7%であった. 4.RAPD-PCR法の識別精度は,プライマーの選定がキーポイントであり,適切なプライマーを用いれば,非常に高い識別精度が得られることが明らかにされた. 5.RAPD-PCR(プライマー1)法とPFGE法の間で識別精度では大きな差は無かったものの,検査に要する時間(2日対7日)と手技の簡便性・経済性(制限酵素処理,複雑な電気泳動等)の点において大きな差が認められた. 6.これらの結果から,感染看護分野への導入には,RAPD-PCR法が推奨されると考えられた.
|