Research Abstract |
プリオン病は,プリオンタンパク(PrP^C)が高次構造の変換によりプロテアーゼに抵抗性の異常プリオンタンパク(PrP^<Sc>)が不溶化・凝集化し,主に中枢神経系に蓄積することが原因とされている。プリオン病原体はPrP^<Sc>そのものであり,ゲノムを持つ病原微生物を原因とする一般の感染症と異なり,高感度なPCR法などを応用できない。同時に,液性・細胞性免疫の反応は見られないことも併せて,生存個体レベルでPrP^<Sc>自身を特異的に検出・同定することによる診断は容易でない。本研究では,昨年度,少なくとも感染初期にはPrP^<Sc>の増幅を含めて生体側が特異的な反応を示すことを想定して,早期診断および感染・発症機構を解明するための方法として,マイクロアレイを用いて包括的に発現遺伝子プロファイリングを試みた。マウスの脾臓および脳では,プリオン(PrP^<Sc>を含む脳乳剤)接種に伴う遺伝子発現プロファイルに,経時的なずれ及び類似性が認められ,各々の組織で生じるPrP^CからPrP^<Sc>への異常化を反映している可能性があることを示した。今年度は,特にPrP^<Sc>の増幅およびその阻害に関わる分子の情報を収集するために,プリオン持続感染マウス神経芽細胞腫株ScN2aをコンゴレッド(CR)を用いて治療し,その前後の遺伝子発現パターンの変化をマイクロアレイにより解析した。顕著な変動を示した96遺伝子は,炎症や免疫反応,グリア細胞及びアストロサイト系の活性化に関連するものは少なかったが,昨年度明らかにした感染初期に脾臓や脳で見られたプロファイルとの重複も少なく,PrP^<Sc>の増幅機序とCRによるその阻害機序との相違を示唆した。マイクロアレイによる遺伝子発現プロファイルは,プリオン病の早期診断あるいは発症機構の解明に有用な臨床分子病理学的方法として更に検討する意義があると考えられる。
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