2004 Fiscal Year Annual Research Report
コーパス言語学に基づくイギリスの上院判例における語法の歴史的研究
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15652025
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
鳥飼 慎一郎 立教大学, 法学部, 教授 (90180207)
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Keywords | 話法 / イギリス上院判例 / コーパス言語学 / 話法の多重構造 / 思想内容の伝達 / 言語の現実に対する優位性 / 非伝達部の簡略化 / コミュニケーション |
Research Abstract |
1)既に構築した300万語の歴史的イギリス上院判例(1700年前後の100万語、1866年以降の100万語、2000年と2001年の100万語)の中から、代表的な判例を各1例ずつ選び出し、それらの判例中における各種話法を全て取り上げ、それぞれについて詳細に分析を行った。 2)その結果、年代に関係なく、判例文中に占める話法部分の割合は50%を裕に超えることが判明し、改めて反例文が話法によって成り立っていることが確認された。 3)その話法の使われ方であるが、判例の地のディスコースに別のディスコースが引用されているという単純引用構造のものよりも、引用の中にさらに別の引用が、その引用の中にさらにまた別の引用が、といった2重、3重、あるいは4重構造の多重引用構造が頻繁に見られた。 4)引用構造が多重化すると、最も初期に引用されたディスコースは簡略化が進み、その被伝達部が節構造から句構造へ、さらには伝達部と融合するという変形過程を取ることが一般に多く見られることが判明した。 5)フィクションなどの話法の研究では、被伝達部が話し言葉であるもの、書き言葉であるもの、それに加えて思考内容であるものの3種類が設定されていることが多い。しかしながら、現実のコミュニケーションにおいて、他者の思考内容を第三者が話法によって直接伝達することことは通常不可能である。思考内容は本人によって言語化されることによって初めて他者に伝達可能になりうるからである。しかしながら、判例においては思考内容の伝達がかなり頻繁に行われているのである。この点に特に注目し、被伝達部の原点となった下級審の判例を分析し、判例文における思考内容の伝達とは、厳密な意味での思考内容ではなく、その思考内容が言語化されたものを基に、その内容から発話者の思考、論点等をまとめて伝達する場合に利用される話法であることを突き止めた。 6)本研究では、John SearleのA Taxonomy of Illocutionary Actsを基に、伝達動詞を分類しているが、「言葉が現実に追随する」(to get the words to match the world)という我々が一般に認識している言語と現実との関係とは別に、「現実が言葉に追随する」(to get the world to match the words)という言葉による現実の決定がきわめて明確に現れる極めてユニークな言語使用の一例であることも判明している。
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