Research Abstract |
音声の音響事象から非言語的な特徴を表現する次元を消失させた音声の物理表象が提案されている(音声の音響的普遍構造)。これは,言語学(構造音韻論)の物理的実装として位置づけられ,また心理学的には音声ゲシュタルト,更に認知科学的には音声アフォーダンスとも解釈できる物理表象である。話者の違い,音響機器の違いが音声表象に影響しないため,本表象を用いて語学学習者一人一人を表象すると,それは発音カルテとして機能するようになる。本年の成果としては,1)本物理表象の数学的解釈を明確にしたこと,2)構造サイズの意味を実験的に明確にしたこと,3)構造サイズに基づく発音評定について検討したこと,4)高校の教育現場での音声収録を開始したこと,などが上げられる。1)においては,本物理表象が情報幾何における多様体と呼ばれる歪んだ空間内において音声事象群を点群として配置し,その点群が成す構造を議論していることが明確となった。各音声事象が不可避的に持つ分布形状に基づいて空間を歪め,事象群を構造として捉えることによって音韻構造の不変性が保証される(構造不変の定理)。2)本物理表象は基本的に音と音の差異に基づいているため,音間距離が明確になると(差異をより明確しかして発声すると)構造は大きくなる。これは,英語の弱勢・強勢母音との関連を示唆するが,実験的に,英語の強勢・弱勢の差異が構造サイズとして計測できることが示された。更には,この構造歪みに着眼することでパラ言語情報の推定精度が向上することが実験的に確認された。3)構造サイズに基づいて適切な強勢生成,弱勢生成が行なわれているのかに関する自動評定を行ない,その結果,教師スコアとの相関値が0.8以上となり,発音自動評定に関する有効なパラメータとして認定することができた。4)更に,実際の高校の教育現場において音声収録を開始した。収録用のソフトウェアなどを開発し,効率良くデータ収集を行い,また診断結果を送付する枠組みについて検討した。
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