Research Abstract |
現在まで細胞固有の硬さ(弾性率)に着目して腫瘍細胞の鑑別を検討した報告はない.今回我々は,細胞個々が有する弾性率という細胞特性に着目して,上皮性腫瘍細胞間の比較,及び上皮性・非上皮性など組織型の違いから細胞間でのヤング率の違いを原子間力顕微鏡を用いた圧入試験を行い,腫瘍細胞の鑑別の可否について検討を行った. 計測対象として,ヒト上皮性腫瘍細胞由来の胃癌培養細胞株のAGS,MKN45,GCIY,KatoIII及びヒト舌癌細胞由来の扁平上皮癌培養細胞株のHSC-3,HSC-4そしてヒト非上皮性腫瘍細胞由来で線維肉腫のHT1089(東北大学加齢医学研究所・附属医用細胞資源センターより供給)を用いた.各腫瘍細胞の平均したヤング率は,AGSで5.5±0.74kPa,MKN45で4.3±2.01kPa,GCIYで6.3±4.34kPa,KatoIIIで4.7±1.78kPa,HT1080で14.5±3.00kPa,HSC-3で2.0±0.72kPa,HSC-4で1.5±0.73kPaであった.これらの結果をKruskal-Wallis testを用いて検定したところ,p値<0.01で各腫瘍細胞間のヤング率に有意差を認めた.次にScheffe法にて,各腫瘍細胞間の多重検定を行ったところ,上皮性腫瘍細胞間及び成因の異なった上皮,非上皮細胞間で有意差を認めた.しかしながら,AGS,GCIY,MKN45そしてKatoIII間の腺上皮性腫瘍細胞間,また扁平上皮癌由来の上皮性腫瘍のHSC-3とHSC-4の間には,有意差を認めなかった. 以上より,原子間力顕微鏡を用いてヒト腫瘍培養細胞株のヤング率を測定した結果,腫瘍細胞の組織型の違いによってヤング率が異なり,弾性率に違いがあることが明らかとなった.今回の検討は原子間力顕微鏡を用いて腫瘍細胞のヤング率を解析することによる腫瘍細胞の鑑別,細胞診などへの臨床応用が期待できると示唆している.今後,形態学的,病理学的手法等も含めて,更なる解析,分析を進めていく予定である.
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