Research Abstract |
今日,コンピュータの飛躍的な性能向上を背景にして,仮想現実や拡張現実と呼ばれる技術への関心が高まっている.その応用例として,陶芸や彫刻などの芸術作品創作を計算機上で実現する仮想芸術の研究が行われている.このような芸術作品創作を支援するシステムで仮想物体を表示するには,通常の平面ディスプレイではなく,ヘッドマウントディスプレイ(HMD)や立体視ディスプレイを使用した立体視が望ましい.しかし,従来の立体視においては,視点間距離や画角などの立体視画像生成パラメータとして,人の平均的な値や立体感を強調するような極端な値を使うなど,不完全で不正確な立体視が行われていた.これに対して,観察者個人の視覚パラメータの決定(Eye Calibration)と,それに基づく仮想空間の設定,さらにステレオカメラの設定と統合カメラモデルを用いた高精度立体視画像合成に関する研究を行ってきた.一方,表示する仮想物体に関しては,実際の操作と同様な操作で創作が行えることが望まれる. 本研究では,仮想芸術として陶芸を対象とし,一般に陶芸で使用されるろくろを想定した仮想粘土モデリングシステムの開発を行った.仮想的なろくろを実現するためには,粘土の特性を表現する粘土モデルが必要であり,粘土モデルとしてセルオートマトンを用いてシステムの実装を行った.セルオートマトン粘土モデルは,粘土を表現するセルの質量が分配されていくことにより変形を実現するモデルであり,比較的少ない計算量で粘土特性を表現できるモデルとなっている.しかしながら,3次元セル空間での微細な変形操作を行うためには,仮想粘土の構成要素であるセル数が膨大となり,実時間処理を行うことは困難である.本研究では,微細セルへの再帰分割,セルオートマトンの状態遷移規則の適用制限,セルサイズに応じた面の生成を行うことでこの問題を解決した.これにより,実際のろくろで陶芸作品を創作するのと同様に,ろくろによる回転体の成形,3次元での自由形状変形,微細モデリングによる表面彫刻が実時間で操作可能な仮想ろくろシステムを実現した.
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